診療支援
治療

2 有機溶剤中毒
organic solvent intoxication
大矢 寧
(国立精神・神経医療研究センター病院・脳神経内科医長)

▼病態

 揮発性と脂溶性のある有機化合物で種類が多い.揮発性で吸入により肺から吸収され,換気不良で中毒が起きる.脂溶性のため,皮膚からも吸収され,腎糸球体からろ過されても尿細管で再吸収され,神経系や副腎に親和性がある.水に不溶だと脂肪組織に入りやすく,脂肪組織に分布すると排泄促進できない.多くは肝代謝後に腎排泄される.溶剤によって生じる障害は異なる.代謝産物の毒性による発症は潜伏時間がある.また発癌性から使用制限がある有機溶剤も多い.

 急性曝露は粘膜刺激や中枢神経抑制をきたす.高濃度吸入では低酸素になる.誤飲で化学性肺炎が起こりやすく,経口中毒では吐かせない.慢性曝露では身体所見が乏しく,頭痛,頭重,めまい,不安,焦燥,不眠,記憶力・集中力の低下,食欲不振などの不定愁訴が出ることが多い.多幸感を求めた意図的なシンナー吸入の依存症は高齢化・減少しているが,産業衛生で重要であり,換気が悪い部屋での接着作業による事故もある.

トルエン(メチルベンゼン,フェニルメタン)

 主に安息香酸に酸化され,グルクロン酸抱合で馬尿酸になり尿に排泄される.亜急性・急性中毒は中枢神経抑制のほか,遠位尿細管アシドーシスに伴う低K血症性ミオパチーで四肢麻痺や横紋筋融解症をきたす.カテコールアミン感受性亢進で心筋症や不整脈も生じうる.慢性曝露は脳萎縮,白質脳症を生じ,認知・記憶障害,人格変化,不眠症,小脳失調,痙性対麻痺,視力低下・視野狭窄,耳鳴・感音性聴力低下もきたしうる.脳MRIで両側の皮質脊髄路と中小脳脚にT2強調画像高信号病変がみられる.代謝性アルカローシスでない低K血症と高CK血症ではトルエン中毒も疑う.

n-ヘキサン(ノルマルヘキサン)

 代謝産物が末梢神経の軸索輸送を障害し,軸索腫大を伴う感覚運動多発ニューロパチーを生じる.曝露中止後もしばらく症状は進行することが多い.

二硫化炭素

 精神症状と感

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