診療支援
治療

(1)ベル麻痺
Bell palsy
服部 直樹
(豊田厚生病院・副院長)

学びのポイント

●顔面神経は顔面の筋肉を支配し顔のさまざまな表情を形づくる.

●顔面神経はこれらの表情筋以外にもアブミ骨筋への分枝がある.

●孤束核,上唾液核からの自律神経,舌前方2/3の味覚の感覚神経は顔面神経と並走する.

▼定義

 片側の顔面神経に起こる末梢性の障害をBell(ベル)麻痺と呼ぶ.Bellは最初に報告した神経学者Charles Bellに由来する.

▼病態

 単純ヘルペスウイルス1型の再活性化によるものとされている.病理像は神経浮腫,炎症細胞浸潤,脱髄性変化などが混在しているとされる.

▼疫学

 発症率は10万人あたり20~30人とされる.性差,年齢による発症率の差はない.一般的には片側性であるが,まれに両側性がみられる.糖尿病,妊婦では発症しやすいとされる.

▼分類

 重症度の分類として柳原法が広く用いられる.10項目をおのおの3段階評価(ほぼ正常4点,部分麻痺2点,完全麻痺0点)で評価する.38点以上は正常,8点以下が完全麻痺である.各項目は,①安静時非対称性,②額のしわ寄せ,③軽い閉眼,④強い閉眼,⑤片目つぶり,⑥鼻翼を動かす,⑦頰を膨らます,⑧口笛,⑨イーと歯を見せる,⑩口をへの字に曲げる.

▼診断

 麻痺側の鼻唇溝は浅くなり,口角は下がり,眼裂は開大する.麻痺側の前頭筋に皺ができない.両目を強く閉じるように命じると,麻痺側ではまつげが隠れずによく見える(睫毛徴候).重度では眼瞼を閉じることができず(兎眼),虹彩部が上転し白い強膜が観察される(Bell現象).

▼治療

経口副腎皮質ステロイド

 可能であれば3日以内の投与,遅くとも10日以内の投与が推奨されている.成人ではプレドニゾロン1mg/kg/日を1週間投与し,その後1週間で漸減中止する.

経口抗ウイルス薬

 副腎皮質ステロイドとの併用が有効とされ,投与量はアシクロビル1,000~2,000mg/日またはバラシクロビル

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