疾患を疑うポイント
●高齢者において,先行疾患なく,歩行障害,認知障害,排尿障害の三徴が緩徐に進行し,頭部MRIやCTで,著明な脳室拡大を認める.
学びのポイント
●「治療可能で」「発見しやすく」「高頻度」であるため重要な疾患である.
●三徴と頭部MRI,CTでの脳室拡大所見で疑う.CSFの圧と性状は正常である.
●VPシャント術かLPシャント術で治療するのが一般的であるが,効果は同等である.
●脳室拡大に加えてSylvius裂の開大と高位円蓋部/正中部の脳溝の狭小化を認めるiNPHを「不均衡にくも膜下腔が拡大している水頭症(disproportionately enlarged subarachnoid space hydrocephalus:DESH)」とよぶが,DESHはiNPHの中核群であると考えられ,かつシャント術の効果が高い.
▼病態
くも膜下出血,髄膜炎などの先行疾患なく,脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)吸収不全が起こり,歩行障害を主体として認知障害,排尿障害の三徴が生じる病態である.
▼疫学
地域在住高齢者の0.5~2.8%程度に存在する可能性が報告されている.
▼診断
3段階で診断する.①60歳代以降に発症し,②歩行障害,認知障害および排尿障害の1つ以上を認め,③脳室拡大(Evans index>0.3)を認め,④脳室拡大をきたす先行疾患を認めない,の条件を満たすとpossible iNPHと診断する.さらに①CSFの圧と性状が正常であり,②CSF排除試験(腰椎穿刺により30mLのCSFを一時的に排除)で症状の改善を認める,あるいは歩行障害があり高位円蓋部/正中部のくも膜下腔の狭小化を認めるとprobable iNPHと診断し,シャント術の実施を考慮する.そしてシャント術によって三徴のいずれかが改善するとdefinite iNPHと診断する.
➊典型