診療支援
治療

脳死
矢﨑 俊二
(新百合ヶ丘総合病院・神経内科部長)

▼定義

 脳死とは,大脳半球全般および脳幹(中脳,橋,延髄)を含む脳全体の機能が不可逆的に停止した全脳死の状態のことである.

▼病態

 大脳は主に思考,運動,感覚などの神経機能の中枢であり,脳幹は呼吸や循環の生命活動を担っている.さらに,脳幹には視床から大脳皮質に及ぶ上行性網様体賦活系があり意識の覚醒状態を維持している.脳死状態では自発呼吸はなく,人工呼吸管理下でなければ呼吸循環を維持できない.脳死と心臓死との間には時間的ズレが生じるが,脳死になると短期間のうちに心停止呼吸停止瞳孔散大(死の三徴)を呈する.これに対して,大脳死は大脳機能が広範に障害されているが脳幹機能はあまり障害されていない状態であり,自発呼吸はある.いわゆる植物状態である.脳幹死は脳幹機能のみが障害されているが大脳機能は廃絶していない状態であり,昏睡状態で自発呼吸は停止しているが脳波活動は認められる.脳死の主な原因には,脳出血,脳梗塞,くも膜下出血,頭部外傷がある.

▼疫学

 従来,わが国では心臓死を人の死とする考えがあったが,現在では脳死を人の死とする考え方が受け入れられるようになっている.わが国では,1997(平成9)年に「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が成立し,1999(平成11)年に脳死判定基準(厚生労働省)が設けられている.臓器移植法は,2010(平成22)年7月17日に改正法が施行された.改正臓器移植法では以下のようになった.①臓器提供の条件は本人の意思不明の場合は家族の承諾で可能,②臓器提供の年齢は家族の承諾があれば15歳未満も可能(生後12週未満は除く),③親族への優先提供は親子と配偶者にかぎり認める(本人の書面による意思表示が必要),④虐待で死亡した児童からの提供を防ぐよう適切に対応,⑤運転免許証および医療保険の被保険者証などへの意思表示の記載が可能.これにより脳死判定による臓器提供者

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