診療支援
治療

6 トリコスポロン症
trichosporonosis
泉川 公一
(長崎大学大学院教授・臨床感染症学)

疾患を疑うポイント

●血液悪性疾患を有する患者で,中心静脈カテーテルを使用し,エキノキャンディン系抗真菌薬に不応性の発熱を有する場合.

学びのポイント

●トリコスポロン血症は,急速に進行し予後が不良である.

●血清(1→3)-β-D-グルカンは上昇し,クリプトコックスグルクロノキシロマンナン抗原も陽性になることがある.

▼定義・概念

 トリコスポロンは,自然界に広く分布し,ヒトの咽頭や皮膚からも時に分離される酵母様真菌である.免疫不全者に表在性真菌症や深在性真菌症を起こす.本菌がアレルゲンとなり,夏型過敏性肺臓炎を起こすこともある.

▼病態・分類・疫学

 トリコスポロン属は,遺伝子学的に酵母様真菌であるクリプトコックスと近い菌種である.Trichosporon asahiiT. mucoidesは,深在性真菌症や夏型過敏性肺臓炎の原因真菌となるが,経気道的,あるいは,口腔内,消化管,膀胱などからも内因性に感染する.性差や好発年齢は認めない.わが国では,真菌血症の原因としてカンジダ症についで多いと推測されている.

▼臨床症状・診断

 呼吸器をはじめ,トリコスポロン血症から播種性となり,消化器,腎臓,皮膚,中枢神経系などさまざまな臓器に感染し,臓器特異的な症状を呈する.感染危険因子は,担癌状態(特に血液悪性腫瘍),好中球減少,HIV感染,ステロイド使用,透析,血管カテーテル使用などであるが,特に血液悪性腫瘍患者からの検出が多く重要である.

 血液,髄液など無菌部位からトリコスポロンが培養されれば確定診断となるが,臨床的にカンジダ血症との鑑別が困難である.トリコスポロンに特異的な抗原検査はないが,血清(1→3)-β-D-グルカンが上昇することが多い.また,クリプトコックスの莢膜抗原であるグルクロノキシロマンナン抗原と共通する抗原をもつため,本抗原検査が陽性になることがある.肺炎の場合は,胸部X線写真

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