診療支援
治療

5 クリプトスポリジウム症
cryptosporidiosis
所 正治
(金沢大学先進予防医学研究センター・准教授)

▼定義

 細胞内寄生原虫であるアピコンプレックス門クリプトスポリジウム属Cryptosporidium spp.の小腸感染を原因とする下痢症.

▼病態

 ヒトは,感染性のオーシスト(oocyst)を経口摂取することでクリプトスポリジウムに感染する.小腸上部でオーシストから脱囊したスポロゾイト(sporozoite)は上皮細胞内細胞質外に侵入し,無性生殖による多数分裂のサイクルを繰り返すことで感染局所を拡大し小腸微絨毛を傷害する.

 多数分裂のサイクルにおいて一部のメロゾイト(merozoite)は雌雄生殖母体となり,有性生殖によってオーシストを形成し糞便に排出する.

 クリプトスポリジウム症は,感染後5~10日の潜伏期間を経て激しい水様性下痢として発症する.腹痛,悪心,倦怠感がみられるが,発熱はまれであり血便は認めない.正常免疫では10日前後で自然治癒をみるが,免疫不全状態では再発,慢性化し,時に死の転帰をとりうる(広義の日和見感染症).AIDSのほか,先天性免疫不全,また抗がん剤治療や骨髄移植などの医原性の免疫抑制でのクリプトスポリジウム症の劇症化,慢性化が報告され,また,胆管・胆囊炎,気管支炎・肺炎などの腸管外感染を合併することもある.

▼疫学

 クリプトスポリジウムのオーシストには通常の水道水の塩素殺菌は無効であり,また,患者便1gあたり100万個もの大量排出のために,水系感染による集団発生が世界中で報告されてきた.

 本症はAIDS診断の指標疾患に指定されているが,抗レトロウイルス療法の普及に伴い先進国でのAIDS患者における年間発症率は1,000人あたり1例未満にまで減少している.

 感染症法の五類届出疾患であるクリプトスポリジウム症は毎年ほぼ数十件が報告され,2017年は19件だった.

▼分類

 クリプトスポリジウム属には,これまでに26種が知られているが,ヒト症例の大部分はヒトのみ

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?