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治療

22 ヒト免疫不全ウイルス感染症,後天性免疫不全症候群
human immunodeficiency virus(HIV) infection/acquired immunodeficiency syndrome(AIDS)
照屋 勝治
(国立国際医療研究センター・エイズ治療・研究開発センター・ACC科医長)

▼定義

 HIVによる感染症である.ひとたび感染が成立すると自然治癒することはなく,持続感染状態(HIV感染症)となる.無治療では,進行して重度の細胞性免疫不全状態となり,さまざまな日和見疾患を発症するようになる.

 感染経路は性交渉による感染,注射器の共用など血液を介した感染,母親からの母子感染である.母子感染の場合,妊娠中の経胎盤感染,分娩時の体液曝露による感染,母乳を介した感染という形で垂直感染あるいは水平感染が起こりうる.

▼病態

 HIV感染症では,HIVによる宿主のCD4陽性T細胞(CD4細胞)の持続的な破壊が起こっている.健常成人のCD4細胞数は750/μL以上であるが,HIV感染後は経時的にCD4細胞数は減少しはじめ,感染からおよそ1~8年程度でCD4数が200/μL未満の重度細胞性免疫不全となる.重度細胞性免疫不全状態で表11-22に示したAIDS指標疾患を発症すると,後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)と診断される.

 従来,HIV感染症は宿主の細胞性免疫を徐々に低下させ,最終的にAIDSを発症する「免疫不全疾患」としてのみ捉えられてきた.しかし,近年の検討により,HIV感染症は持続ウイルス血症のもたらす慢性炎症により,心血管疾患,脳血管疾患,悪性腫瘍,認知症,骨粗鬆症などの多彩な病態のリスクを大幅に上昇させることが判明しており「慢性炎症性疾患」としての側面がクローズアップされてきている.

▼臨床症状・診断

 HIVに感染すると,感染後2~6週程度で2/3の患者に急性HIV感染症とよばれるインフルエンザ様の症状を呈する.ほとんどの症例が数週以内の経過で自然軽快するために,多くの急性HIV感染者が見逃されていると考えられている.原因不明の髄膜脳炎,伝染性単核球症様あるいは血球貪食症候群様の病態を呈するた

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