診療支援
治療

33 天然痘(痘瘡)
smallpox
加來 浩器
(防衛医科大学校教授・防衛医学研究センター・広域感染症疫学・制御研究部門)

▼定義

 ポックスウイルス科オルソポックス属の痘瘡ウイルスによる急性の発疹性疾患である.主として飛沫感染,接触感染など感染者の体液曝露により二次感染する.1980年にWHOが地球上で根絶を宣言した.

▼病態

 典型的な通常型では,7~12日の潜伏期のあとに,発熱,頭痛,筋肉痛などが始まり,第3~4病日にいったん解熱するが,再度の発熱(二峰性)とともに発疹が出現する.発疹は,紅斑→丘疹→水疱→膿疱→結痂→落屑と規則正しく移行する.2~3週間の経過で脱色した痘痕(あばた)を残して治癒する.痂皮にも,感染性ウイルスが長期間存在している.ほかに特殊型として,扁平型,出血型(晩期出現型,早期出現型)などが知られている.

▼疫学

 1796年のJenner(ジェンナー)による牛痘による種痘の有用性が確認され,それ以降は改良がすすんだ痘瘡ワクチンが接種されるようになった.1958年にWHOが世界天然痘根絶計画を開始し,1977年のソマリアでの発症を最後に自然発生例はなくなった.1980年にWHOは根絶を宣言し,世界中で保管されているウイルス株は廃棄するか,米国と旧ソ連(現ロシア)の2研究施設に移管されることになった.しかしその後の冷戦期間中に,痘瘡ウイルスを利用した生物兵器開発が進められていたこと,ソ連崩壊とともにその技術が拡散した可能性があることが指摘され,現在では各国政府が痘瘡ウイルスを用いたバイオテロの可能性を警戒している.

▼分類

 感染症法において,天然痘は一類感染症に,痘瘡ウイルスは一種病原体等に規定されている.なお,検疫法においては,患者を隔離対象,濃厚接触者を停留の対象とする検疫感染症に位置づけられている.

▼診断

 症状や経過から本疾患が疑われた場合は,保健所などを通じた行政検査が行われる.水疱,膿疱,痂皮,咽頭ぬぐい液,血液からウイルスを分離,抗原の検出,PCR法による遺伝子の検出を行

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