診療支援
治療

2 吸収の阻害
inhibition of absorption
須崎 紳一郎
(武蔵野赤十字病院・救命救急センター部長)

 中毒とは「生体に体外から化学物質が侵入して有害な生体作用を及ぼす病態」であるから,有害物質に曝露しても体内侵入を物理的に抑止できれば中毒を阻止,軽減させることができる.ここでいう生体内部とは細胞ないし循環血液内であり,消化管の内腔は生理学的にはまだ体外に相当する.

 急性中毒の発生機転には経皮,経気道などもあるが,臨床的には経口によるものが圧倒的に多いため,まず薬毒物の経口摂取時の吸収の阻害,すなわち消化管除染を考える.

▼消化管除染の方法

 経口摂取された薬毒物は口腔,食道を経て胃に入り,その後十二指腸,小腸,大腸の消化管粘膜より門脈系に吸収される.このため消化管上部での吸収が非常に迅速なもの(エタノールなど),局所直接傷害作用が顕著な物質(酸,アルカリなど)では消化管除染の効果は乏しく,一方,消化管粘膜から吸収されない金属水銀,安定した金属などには消化管除染を考える必要はない.

 これまで急性中毒に対する消化管除染(消化管内に遺残する薬毒物の体外排除)として,催吐,胃洗浄,下剤の投与,活性炭の投与,腸洗浄などの方法が行われた.特に胃洗浄は救急医療の現場でルーチン(慣行的)に施行されてきた.しかし近年の疫学的検討によりその臨床的意義が疑問視されて,現在,経口急性中毒に対して臨床的有用性が認められる消化管除染は,活性炭の投与と腸洗浄にほぼ限定されている.ここでは現行の「急性中毒の標準治療(日本中毒学会)」にそって消化管除染を概説する.

活性炭の投与

 活性炭(activated charcoal)は多くの物質と結合する吸着剤であり,それ自身は消化管から体内に吸収されないため,薬毒物を吸着したまま消化管から排泄される.腸肝循環の抑制も期待される.活性炭は木材・泥炭など熱分解した炭を再加熱して活性化(activated)させた製剤で,内部に多数の空洞を形成して重量あたりで広大な表面積を

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