▼概説
二酸化硫黄(SO2),塩化水素(HCl),アンモニア(NH3),塩素ガス(Cl2),窒素酸化物(NO,NO2),ホスゲン(COCl2)などがある.
▼毒性のメカニズム
HCl,SO2,NH3などの水に溶けやすい刺激性ガスは,主に目・鼻・口・上気道の粘膜の粘液中に急速に溶解する.Cl2など水溶性が中等度のガスは,吸気とともにより深部まで吸入され,上気道から下気道の粘膜粘液中に広く溶解する.NO,NO2,COCl2など水に溶けにくいガスは,主に下気道粘膜の粘液中に緩徐に溶解し,蓄積する.これらのガスは粘液中で電離して酸性やアルカリ性を示すようになり,粘膜を刺激して局所の組織傷害を引き起こす.NO2は上記機序に加えて,フリーラジカルを生じて肺組織を直接傷害すること,メトヘモグロビン血症を生じること,直接血管平滑筋に作用して血管拡張作用を示すことが知られている.
▼中毒症状
主に,ガスを吸着した部位の粘膜を主座とした症状が出現する.流涙・羞明など角結膜炎症状,鼻汁・咳嗽など上気道刺激症状,呼吸困難,咽喉頭炎,喉頭浮腫,喉頭れん縮,気管支れん縮,気管支炎,化学性肺炎,肺水腫などを認める.水溶性の高いガスでは曝露後早期に症状が出現しやすく,一方で水溶性の低いガスでは遅発性に症状が出現して増悪する傾向がある.
▼治療
➊全身管理
新鮮な空気のある安全な場所へ移動させ,100%酸素を投与する.呼吸・循環動態を観察し,必要があれば気管挿管下に人工呼吸を行う.気管支狭窄に対してはβ2刺激薬などを投与する.
➋吸収の阻害
眼症状がある場合には大量の水で洗浄する.皮膚に付着している場合は,石鹼と大量の水で洗浄する.
➌排泄の促進
有効な方法はない.
➍解毒薬,拮抗薬
窒素酸化物による中毒では,メトヘモグロビン血症を認める場合にメチレンブルーを投与する.
▼予後
気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患などの基礎疾患