1.整形外科領域手術部位感染症の疫学
厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(2019年)の公開情報によると,整形外科領域のSSIは脊椎固定術1.7%,椎弓切除・形成術1.1%,人工膝関節全置換術0.8%,人工股関節全置換術0.6%,骨折観血的整復術0.7%である.主な原因菌はStaphylococcus aureus(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA含む)などのブドウ球菌属で,これらすべての術式で検出されている.
2.患者免疫能の維持
米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention;CDC)は,SSI予防のためのガイドラインの改訂版を2017年に公開している.この中で宿主の免疫能を維持するため糖尿病の有無にかかわらず,周術期血糖を<200mg/dLにコントロールすること,周術期は正常体温を維持することなどが推奨されている.高濃度の酸素を投与することも推奨されているが,無気肺などの悪影響も危惧されており,わが国で取り入れている施設は少ない.
3.予防抗菌薬投与
予防抗菌薬投与は,CDCガイドラインや日本化学療法学会/日本外科感染症学会の「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」(JSC/JSSI2016)などで強く推奨されている.アレルギーがなければ第1世代セフェム系(セファゾリン)の使用が推奨される.β-ラクタム系薬に対するアナフィラキシーなどアレルギー既往がある場合はリンコマイシン系(クリンダマイシン薬),グリコペプチド系(バンコマイシン薬,テイコプラニン薬)などの使用が推奨される.
投与のタイミングは手術が始まる時点で十分な殺菌作用を示す血中濃度,組織中濃度が必要なため,執刀1時間前以内(バンコマイシン薬は執刀2時間前以内に投与を開
関連リンク
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