診療支援
治療

針刺し切創,皮膚・粘膜曝露
Needlestick injuries, percutaneous exposure
楫野 良知
(金沢大学附属病院 特任准教授(医療安全管理部・整形外科))

【概説】

 本項では,注射針に限らず,整形外科の日常診療で使用する頻度が高いギプスカッターや手術におけるメス,ノミ,サージカルソー,ドリル,ワイヤー,レトラクターといった,先端が鋭利な医療機器による受傷も含めた血液・体液曝露への対応としてまとめる.

 血液・体液曝露は,医療従事者が患者などの他者の血液などで汚染された機器で外傷を受けること,また,血液や体液が皮膚粘膜に曝露することを指す.血液や体液を介して感染する代表的な疾患としては,B型およびC型肝炎,後天性免疫不全症候群(AIDS),成人T細胞白血病,梅毒などが挙げられるが,その他の未知の病原体が存在することも考えられる.曝露後の感染発症の確率は,B型肝炎ウイルス(HBV)で1~31%,C型肝炎ウイルス(HCV)で1~7%,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)で0.2~0.5%といわれている.針刺し切創に限った発生頻度は,過去の報告では病床100床あたり年間30~40件程度と推計されている.職種では,半数が看護職であるが,近年,医師における発生数の増加傾向が認められている.血液・体液曝露対策を考えるうえでは,受傷する前の未然防止策と,曝露が起きてしまった後の対策の双方を考える必要がある.


1.未然防止策

 第一に,普段からの標準予防策(standard precautions)の職員への習慣化が必要である.標準予防策とは,血液,汗を除くすべての体液,分泌物,排泄物,傷のある皮膚,粘膜は感染性があるものとして対応することである.患者および医療従事者双方の感染リスクを低減するために実施するものであり,手指衛生に加え,ガウンやエプロン,ゴーグル,マスクなどの個人防護具の使用などが含まれる.針刺し切創に関していえば,使用後の注射針にはリキャップをしない,使用後には鋭利物は持ち歩かずにすぐにその場で廃棄ボックスに捨てることが予防策となる.静脈留

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