診療支援
治療

多発骨折とそのピットフォール
Multiple fractures and its pitfalls
安竹 秀俊
(石川県立中央病院 診療部長〔石川県金沢市〕)

 多発骨折とは2か所以上の骨折が同時に起こることをいうが,多くは高エネルギー外傷で多臓器損傷を合併しているため,初期診療としてprimary surveyを行い,生命維持のため生理機能の回復維持を優先する.その後secondary surveyにより損傷部位の評価を行って整形外科的診療に向かう.高エネルギー外傷の場合,多発骨折とともに局所の軟部組織損傷が著しいことが多く,適切な初期治療が必要となる.近年高齢者の多発骨折も多く,その基盤には骨脆弱性が存在し,骨折部位の安定化に苦慮することが多い.また小児の多発骨折にもいくつかの注意点があり,それらについて概説する.


1.高エネルギー外傷による多発骨折

 交通事故や高所転落などの高エネルギー外傷では,多臓器損傷を伴った多発骨折が多い.近年early appropriate care(EAC)という概念が提唱されている.EACでは,多発外傷で大腿骨や脊椎,骨盤などに不安定な骨折がある場合,8時間以内にpH7.25以上,乳酸4.0mmol/L以下,base excess(BE)-5.5mmol/L以上の状態に蘇生できなければdamage control orthopaedics(DCO)を継続するが,可能であれば受傷後36時間以内に上記パラメーターを改善させてdefinitive fixationを行うことにより多発骨折,多発外傷の患者の合併症低減が可能になるとされている.

【1】多臓器損傷合併例

 頭部外傷による意識障害を伴った多発骨折や,重度の胸部外傷を合併した多発骨折,腹腔内出血,後腹膜出血を伴った骨盤骨折などでは出血コントロールのうえ,早期に四肢,骨盤などへのDCOを行うことにより,体位交換や看護を可能とし,喀痰排出や血圧のコントロールなども容易となる.その後全身状態の回復を待ってrigid fixationを行う.

【2】脊椎,脊髄

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