診療支援
治療

末梢神経損傷総論
Peripheral nerve injuries
金谷 文則
(富永草野病院 理事長〔新潟県三条市〕)

【疾患概念】

 末梢神経は末梢からの情報を受け取り中枢へ伝達し,中枢からの指令を軸索を経由して末梢へ伝達する機能をもつ.そのほかに神経細胞で生成された神経栄養物質を軸索輸送で運搬し,受容体(筋,知覚受容体など)の形態を維持している.末梢神経損傷により,さまざまな程度の感覚低下,筋力低下,効果器の萎縮を生じる.軸索は神経細胞の突起であり,断裂すれば遠位は変性をきたし(Waller変性),再生軸索が効果器に達すれば機能が回復する.

 末梢神経軸索径は有髄神経で2~20μmであり,数千本の神経軸索が神経周膜に包まれて神経束を形成し,1~数本の神経束が神経外膜に囲まれて末梢神経を構成している.神経縫合に用いられる縫合糸(8-0,9-0ナイロン糸)の径が30~50μmであるため,外科的に修復可能なのは神経束のレベルである.軸索が断裂すると,断裂部より数本の軸索が再生し,神経外に再生すると神経腫を形成する.軸索が遠位神経内に再生すると1~2mm/日遠位方向に伸長する.神経腫または再生神経先端の叩打により,損傷された神経支配領域に生じる電撃感や蟻走感をTinel徴候とよぶ.再生軸索が元と異なる遠位神経に再生,特に運動神経と感覚神経を間違って再生した場合は過誤支配(misdirection)とよび,機能回復は得られない(図2-10).

【病態・分類】

 Seddonは臨床所見により末梢神経損傷を一過性神経伝導障害(neurapraxia),軸索断裂(axonotmesis),神経断裂(neurotmesis)の3型に分類した(図2-11).鋭利な切創では,分類は比較的容易であるが,牽引や圧挫損傷では伝導障害,軸索断裂,神経断裂が混在する.

 ①一過性神経伝導障害(図2-11a):軸索の断裂を伴わない一過性の伝導障害であり,数日から数週間,通常8週間以内に完全回復する.神経の外観は正常であり,損

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