【概要】
有効な化学療法が導入される以前,骨肉腫やEwing肉腫など高悪性度骨腫瘍の治療成績はきわめて不良であり,診断後直ちに患肢の切断術が行われていたにもかかわらず,多くの患者は,やがて顕在化する肺転移などの遠隔転移によって生命を奪われていた.この事実は,これらの高悪性度骨腫瘍の多くは診断時すでに微小な遠隔転移を生じていることを示しており,生命予後改善のためには有効な全身化学療法の導入が必須であることを物語っていた.1980年代,骨肉腫の治療にドキソルビシン,メトトレキサート薬,シスプラチン薬を用いた化学療法(MAP療法)が導入され,その生命予後は劇的に改善した.また,術前化学療法によって患肢温存術が可能となるなど,化学療法の導入は,高悪性度骨腫瘍治療のまさしくパラダイムシフトを引き起こした.
一方,悪性軟部腫瘍の多くを占める非小円形細胞肉腫においては,長年,ドキソルビシンとイホスファミド薬の2剤のみが有効な薬剤として用いられてきたが,21世紀に入り,悪性軟部腫瘍を適応症とする新薬(パゾパニブ,トラベクテジン薬,エリブリン)が続々と開発され,臨床の現場に登場してきた.
現在,悪性骨・軟部腫瘍のなかで化学療法の絶対的適応と考えられるのは,骨肉腫,Ewing肉腫,横紋筋肉腫であり,相対的適応とされるのは,滑膜肉腫,未分化多形肉腫などの高悪性度軟部腫瘍である.術前・術後補助療法として,また進行例に対する緩和的治療として,多くの悪性骨・軟部腫瘍の患者が化学療法の恩恵にあずかっている.
1.悪性骨・軟部腫瘍に使用される抗がん剤(表5-3図)
【1】ドキソルビシン(doxorubicin;DOX)
ドキソルビシンは,悪性骨・軟部腫瘍の治療で頻用される抗がん剤である.骨肉腫に対してはシスプラチン薬と組み合わせて,Ewing肉腫ではビンクリスチン,シクロホスファミドと組み合わせて用いられるこ
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