診療支援
治療

トピックス 筋分化の基礎
秋山 智彦
(慶應義塾大学 専任講師(坂口光洋記念講座システム医学))

 脊椎動物の胚発生研究により,将来筋組織を形成する細胞の分化過程が明らかになった.まず体の形がつくられる初期の段階において神経管の左右にある中胚葉由来の体節から骨格筋の元になる「筋前駆細胞」が出現する.筋前駆細胞は,成長因子の刺激を受けて活発に増殖する「筋芽細胞」へと分化し,脊柱周囲の筋肉や背側の筋肉を形成する.一方,遊走した筋前駆細胞は分裂を繰り返しながら四肢と腹部に行き渡り,将来筋肉へと分化する.一定の細胞数に到達した筋芽細胞同士は,融合して細長い「筋管細胞」に変貌し,束ねられた筋線維を形成することによって各部位の筋収縮装置をつくり出す.筋前駆細胞の一部は筋線維の周囲にとどまり,細胞周期を停止する.これらの細胞は「サテライト細胞」とよばれ,生後の筋再生能を担う.サテライト細胞は損傷シグナルを受けた場合に細胞分裂を開始し,筋芽細胞に分化後,増殖を繰り返し,発生期と同様の分化系をたどることにより筋再生を成立させる.

 筋分化を試験管内で再現する細胞培養法の確立と,遺伝子導入・遺伝子欠損技術の発展により,骨格筋分化を制御する遺伝子が同定された.各分化ステージには異なる遺伝子が関与しており,特に転写因子として機能する遺伝子が筋細胞の性質を規定する.ここでは代表的な5つの筋分化制御転写因子(Pax3,Pax7,Myf5,MyoD,Myogenin)について概説する.Pax3/Pax7は重複した機能をもち,中胚葉から筋前駆細胞への分化を制御する.また,それぞれの機能としてPax3は四肢筋の形成に,Pax7は生後のサテライト細胞の維持に必須である.Myf5とMyoDは,筋前駆細胞およびサテライト細胞から筋芽細胞への分化や,筋芽細胞の増殖に重要な役割を果たす.両遺伝子を欠損したマウスでは骨格筋線維および筋芽細胞が完全に失われる.Myogeninは,筋成熟の段階に関与しており,筋芽細胞から

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?