1.高齢者が抱えるリスクとリスク管理
高齢者の特徴として,さまざまな身体機能の低下と併存疾患の存在がある.併存疾患としては,重篤な併存疾患と高頻度な併存疾患がある.重篤な併存疾患としては,心不全,心臓弁膜症,脳血管障害,肺塞栓,肺炎などがある.頻度の高い併存疾患としては,高血圧,糖尿病,慢性腎不全,認知症,不整脈,尿路感染,変形性関節症による関節の痛み,骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折などがある.高齢者では,上記の併存疾患を複数有していることが少なくないため,運動器リハビリテーション治療によって起こりうる有害事象(リスク)を把握して,リスク管理を行う必要がある.
【1】運動器リハビリテーションに関連する有害事象
有害事象が発生してしまった場合,患者,医療機関双方にさまざまな損失が発生する.具体的には,機能予後の悪化,治療満足度の低下,医療機関に対する不信感,在院日数の長期化,医療コストの増大などが発生しうる.有害事象としては,合併症,事故,院内感染がある.
(1)合併症
肺塞栓,虚血性心疾患,大動脈解離,大動脈瘤破裂,喘息重積発作,脳卒中,低血糖.
(2)事故
転倒・転落,窒息,チューブ抜去,患者取り違えなど.
(3)院内感染
患者から職員,または職員から患者への感染.
【2】リスク管理
有害事象発生の予防と発生時の適切な対応による影響の軽減が重要である.そのためには有用なシステムが必要である.
①予防システム:ハイリスク患者のスクリーニングとハイリスク患者に対する予防策の実施.
②影響軽減システム:院内緊急コール体制の整備,救急カートの整備,対応マニュアルの整備.
日本リハビリテーション医学会では,『リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン第2版』(リハビリテーション医療における安全管理推進のためのガイドライン策定委員会編,診断と治療社,2018)を刊行してリスク管