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治療

肩関節の診察法
Physical examination of the shoulder joint
今井 晋二
(滋賀医科大学 教授)

1.概説

 肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節であるが,その周囲には肩鎖関節,肩甲胸郭関節がその運動に参加している.したがって肩の機能障害があれば,これら3つの関節のうちどの機能が最も障害されているのかを見極める.このうち,肩甲上腕関節の機能障害が最も多いが,関節軟骨や関節包など関節自体の疾患であるか,腱板など周囲筋の疾患か,三角筋を代表とする肩甲帯周囲筋への末梢神経障害かも見極める.末梢神経障害では,頚椎由来か,末梢神経由来かを見極める必要がある.情報の収集漏れがないように留意しつつ,問診,視診,触診と診察を進める.


2.問診

 肩の症状は,大きく疼痛に由来する症状か,機能障害や運動障害に由来する症候かに分けられる.そして,それらは同時に出現することも多くある.疼痛については,その部位,その誘発や程度,出現時間も診断に必要な情報である.疼痛性の運動障害で夜間の痛みが強い場合は腱板断裂や肩関節周囲炎が疑われる.疼痛のない挙上困難では,Keegan型頚椎症や広範囲腱板断裂が疑われる.問診は診断の手がかりのfirst lineの情報であり,聞き落しのないように網羅的に聴収する必要がある.

 症状の発生時期,何らかの原因の有無,症状の部位と程度を詳細に聞き取る.外傷歴,スポーツ歴に加えて利き手側か否かの聴収も重要である.症状が日常生活動作,職業関連動作,睡眠などの時間帯で誘発もしくは緩解するかも尋ねる.関節リウマチ,透析,石灰沈着性関節症など全身の骨関節疾患の既往歴,頚椎疾患や末梢神経障害の既往例も重要である.


3.視診

 視診は,患者が診察室に入るときから始まる.疼痛回避性に肩や上肢をかばう様子があれば,脱臼や骨折などの激しい疼痛を伴う外傷を疑う.患者に上衣の上着と下着を脱衣してもらうとき,疼痛回避があるか,関節拘縮などの可動域低下があるのか,広範囲断裂などの肩挙上困難があるのか,神経

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