診療支援
治療

外傷性肩関節脱臼
Traumatic dislocation of the shoulder
井樋 栄二
(東北大学 名誉教授/東北労災病院 副院長〔仙台市青葉区〕)

【疾患概念】

 肩関節は人体のすべての関節のなかで最も脱臼しやすい関節として知られている.脱臼はすべての方向に起こり,骨頭の脱臼する方向によって前方脱臼,後方脱臼,下方脱臼,上方脱臼に分けられる.このうち前方脱臼が98%と圧倒的に多く,残る2%が後方脱臼である.下方脱臼(直立脱臼ともいう)は上肢挙上位で骨頭が関節窩の下方へ脱臼する病態,上方脱臼は肩峰,鎖骨,烏口突起などの骨折を伴う高度外傷による脱臼であり,いずれもまれな脱臼である.前方脱臼では前下関節上腕靱帯が損傷し,多くは関節窩から剥離するBankart損傷の形態をとる.後方脱臼では後下関節上腕靱帯が損傷する.前方脱臼に伴い関節窩前縁の骨欠損や上腕骨頭の陥没骨折(Hill-Sachs損傷)を起こすことが多い.骨欠損の大きさが危険域に入ると軟部組織の修復だけでは安定性が得られず,骨欠損に対する処置が必要になる.

【頻度】

 外傷性肩関節脱臼の発症頻度は年間10万人あたり11~27人と報告されている.


問診で聞くべきこと

 受傷時の状況,脱臼の既往がないか,上肢の知覚鈍麻,麻痺など合併損傷の有無に気をつける.


必要な検査とその所見

 脱臼の有無と脱臼の方向,合併損傷としての骨折の有無を確認するために単純X線を撮影する.通常外転できないので,正面像と肩甲骨Y像の2枚を撮る.通常の外傷性初回脱臼であれば,関節窩骨折はあったとしても小さく,単純X線ではわからないことが多い.単純X線でわかるような骨片が見られた場合にはCT検査を行って関節窩骨折として治療する必要がある.Hill-Sachs損傷は脱臼している時間に比例して大きくなる.特にてんかん発作で脱臼した場合には脱臼位で筋収縮が持続するためHill-Sachs損傷が大きくなることが多い.


診断のポイント

(1)脱臼の方向の確認:整復操作を安全かつ確実に行うために脱臼の方向と骨折の有無を単純X線で確

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