診療支援
治療

肩甲骨骨折
Fracture of the scapula
江川 琢也
(岡波総合病院 医長〔三重県伊賀市〕)

【疾患概念】

 肩甲骨は胸郭上での可動性が大きく厚い筋層で囲まれ,大きな外力が直接作用し難いため,骨折が生じることはまれである.このことは裏を返せば,肩甲骨骨折発生時には相当大きな外力が作用したことを意味しており,多数の合併損傷が認められるのが本骨折の特徴である.

【頻度】

 全肩甲帯部骨折の約3~5%,全骨折の0.4~1%である.

【病型・分類】

 解剖学的に体部骨折・頚部骨折・肩峰骨折・肩甲棘骨折・烏口突起骨折・関節窩骨折に分類され,関節窩骨折にはIdeberg分類が頻用されている.

【臨床症状】

 骨折部は圧痛を有するが,腫脹は厚い筋層に覆われ判然としないことが多い.頚部骨折や肩峰骨折では肩幅が狭くなり「なで肩」となる.体部骨折では筋肉内出血により腱板の機能が低下し,あたかも腱板断裂時のように上肢の自動挙上ができなくなる.これは“pseudorupture of the rotator cuff”と言われる.


問診で聞くべきこと

 患肢の知覚運動障害の有無,呼吸時痛などを問診し,高率に発生する合併損傷を見逃さないように注意する.


必要な検査とその所見

 X線検査は,肩関節正面像とスカプラY像を撮影する.X線正面像では肩甲骨は胸郭や鎖骨などと重なり,読影は必ずしも容易ではなく,3D-CTはきわめて有用である.


鑑別診断で想起すべき疾患

 “pseudorupture of the rotator cuff”を呈する症例では,腱板断裂との鑑別が必要である.os acromialeは肩峰成長線の遺残で,肩峰骨折との鑑別が必要である.小児の肩甲骨には多数の骨端核・骨端線があり,骨折線と見間違われやすく注意を要する.同部の圧痛や健側との比較により鑑別する.


診断のポイント

 重複損傷を念頭に置き,1か所の骨折に目を奪われ他部位の損傷を見逃さないように注意する.初療時は合併損傷などにより臥位でX線撮影されるこ

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