【疾患概念】
上腕骨遠位の尺骨神経溝から尺側手根屈筋の二頭間(尺骨頭と上腕骨頭)にある腱性アーチ(Osborne band)までを狭義の肘部管とよぶ.厳密には,同部における絞扼性尺骨神経障害を肘部管症候群とよぶが,実際にはStruthers' arcadeにおける絞扼など肘部管外での絞扼も含まれることが多い.肘関節周囲骨折後の遺残変形や変形性肘関節症に伴って発症することがある.また頻度は低いが,ガングリオンや増生滑膜などの占拠性病変による圧迫や,解剖学的異常(滑車上肘筋,肥大した上腕三頭筋)による圧迫,習慣性尺骨神経脱臼などが発症原因として挙げられる.
問診で聞くべきこと
外傷歴や職歴,スポーツ歴は必ず聴取する.糖尿病,関節リウマチ,頚椎症などの合併の有無も確認しておく.
診断のポイント
①病歴,臨床所見,電気生理学的検査をもとに総合的に診断する.
②小指や環指尺側のしびれ感が最も多い症状で,同部の疼痛や冷感を訴えることもある.通常,手部や前腕部尺側にも知覚障害を認める.手背尺側の知覚障害があれば,尺骨神経管障害よりも肘部管症候群の可能性が高い.
③肘関節の可動域や内外反変形の有無を確認した後,内側上顆後方の尺骨神経溝で尺骨神経を触診する.経過が長い場合,腱性アーチの中枢側で偽神経腫を触れることがある.尺骨神経脱臼の有無も肘関節を自動運動させて確認する.
④内側上顆後方の尺骨神経溝におけるTinel様徴候や,肘屈曲テスト(肘関節を最大屈曲位で保持するとしびれが増強する)も診断に有用である.
⑤手内筋の麻痺の進行例では,ボタンかけ・箸使い・紐結びなどが困難となる.Wartenberg徴候,Froment徴候,鉤爪変形といった特徴ある所見が見られ,握力やつまみ力も低下する.
⑥X線は,通常の肘関節2方向に加え,尺骨神経溝撮影も行い,変形性肘関節症変化や肘関節の骨性アライメントを確認する.疼痛の
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