診療支援
治療

尺骨神経管症候群
Ulnar tunnel syndrome
信田 進吾
(東北労災病院 副院長〔仙台市青葉区〕)

【疾患概念】

 尺骨神経管(Guyon管)症候群は,尺骨神経が手関節部の豆状骨・有鉤骨間にあるGuyon管で障害されて生じる絞扼性神経障害である.尺骨神経は手関節の近位で手背尺側へ知覚枝を分岐してからGuyon管に入り,知覚枝(浅枝)と運動枝(深枝)に分かれ,深枝は小指外転筋に枝を出した後に腱性アーチを通過して橈側へ向かい骨間筋,虫様筋などへ向かう.

【頻度】

 筆者が過去10年間に経験した本症の手術症例は22例で,肘部管症候群320例の約1/15である.

【病型・分類】

 麻痺型は津下・山河分類でⅠ型:Guyon管中枢側で深枝・浅枝ともに障害,Ⅱ型:浅枝のみの障害,Ⅲ型:深枝のみの障害,Ⅳ型:小指外転筋以外の深枝の障害,と分類するが,分類不能例もある.

【臨床症状】

 障害部位により多様であり,Ⅰ型は尺骨神経支配筋の麻痺と環指尺側・小指の掌側の知覚障害,Ⅱ型は知覚障害のみ,Ⅲ型とⅣ型は尺骨神経支配筋の麻痺,となる.発症原因は占拠性病変(ガングリオン,神経鞘腫など),直接外傷によるものやハンマーの多用など慢性的な外力,動静脈や破格筋による圧迫などである.


問診で聞くべきこと

 職業歴,スポーツ歴,外傷歴,慢性的なストレスの有無,基礎疾患の既往歴を聴く.


必要な検査とその所見

 画像所見はX線像で手関節・手根骨の変形や骨折の有無を確認し,MRI,超音波でガングリオンなどの占拠性病変を確認する.電気生理学的診断は確定診断のために有用であり,尺骨神経伝導検査を行い遠位潜時の延長と振幅の低下を確認しGuyon管部での尺骨神経伝導障害を診断する.


鑑別診断で想起すべき疾患

①肘部管症候群:知覚障害は環指尺側・小指の掌側と背側に及び,神経伝導検査で肘部管部での伝導遅延を示す.

②頚椎症性神経根症(C8,T1):知覚障害は前腕内側に及ぶことが多い.

③胸郭出口症候群:Roosテスト陽性で若年女性に多い.


診断のポイント

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