診療支援
治療

中手骨骨折
Fractures of the metacarpals
多田 薫
(金沢大学 助教)

【疾患概念】

 中手骨骨折は,骨頭骨折,頚部骨折,骨幹部骨折,基部骨折に分類される.上肢の骨折のなかでも頻度の高い骨折であり,なかでも小指の中手骨頚部骨折の頻度が高い.本項では示指~小指の中手骨骨折について述べる.

【臨床症状】

 手背部の疼痛,腫脹,皮下出血を認める.中手骨骨折では内在筋と外在筋の緊張度から近位骨片が伸展し遠位骨片が屈曲するため,背側凸変形を呈する.背側凸変形に伴う中手指節(metacarpophalangeal;MP)関節の過伸展とこれに続く近位指節間(proximal interphalangeal;PIP)関節の伸展制限を生じた状態をpseudoclawingと呼称する.


診断のポイント

 単純X線で骨折線を認めることで確定診断できる.特に小指,環指の中手骨基部骨折は見逃されることが多いため,側面像や斜位像でも評価すべきである.また,外傷歴について問診しておく.何かを殴った際に受傷した例は病歴を詐称することがあり,注意を要する.


専門病院へのコンサルテーション

 手背の軟部組織欠損を伴うような多発骨折例については,植皮や皮弁による再建を要するため専門病院へのコンサルテーションを行う.


治療方針

【1】保存療法

 多くの骨折例は保存療法の適応であり,石黒らが報告したナックルキャスト(図16-2)や背側スプリント,バディテーピングなどが用いられている.小指の中手骨頚部骨折については治療方針に関して現在も議論が続いている.30°を超える背側凸変形は手術適応であるとする報告が多いが,近年は70°までの背側凸変形は保存療法で加療できるとする報告や,装具による固定は不要であるとする報告も存在する.

 保存療法を行う際は,外固定材料や装具によりMP関節を屈曲位とし骨折部の安静を図る.MP関節を屈曲位とする利点として,伸筋腱の緊張や隣接指との接触により骨折部が安定する点,中手骨頭がカム

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