【疾患概念】
母指あるいは示指(ときに中指)の中手指節(metacarpophalangeal;MP)関節部が,特定の肢位でロック(固定)されたように動かせなくなる状態を指す.
【病態】
母指ロッキングは,MP関節の過伸展強制による掌側板損傷が誘因となって発生する.掌側板は中枢に位置する脆弱な膜様部で断裂する.掌側板に付着する橈側側副靱帯の副靱帯(accessory ligament)は,過伸展変形により断裂した掌側板とともに末梢に移動する.橈側の副靱帯が中手骨の掌側結節(隆起)を乗りこえると,ロッキングが生じる(図16-13図).
示指ロッキングは指を握りこんだ際に発生する.中手骨頭掌側の骨棘に,橈側の副靱帯が引っかかりロッキングが生じる.
【臨床症状】
母指では過伸展位で,示指(中指)では屈曲位でロッキングが生じる.示指(中指)は伸展位をとることができないが,屈曲は可能である.
問診で聞くべきこと
外傷の有無と受傷肢位を確認する.
必要な検査と所見
単純X線撮影で,骨折や脱臼の有無を確認する.X線で骨折を疑う場合にはCT撮影を追加し,側副靱帯の裂離骨折や種子骨骨折を同定する.ロッキングに特徴的なX線所見として,母指では種子骨が遠位尺側に移動しMP関節に嵌頓しているように描写される.示指では回内斜位像により,中手骨頭の橈掌側に位置する骨棘が描出できる.
鑑別診断
MP関節背側脱臼や尺側側副靱帯損傷(Stener's lesion)が,ロッキング様症状を呈する場合がある.MP関節内の骨軟骨骨折などに続発する関節内遊離体も,ロッキングの原因になりうる.
診断のポイント
母指と示指(中指)がロッキングする特定の肢位(母指では過伸展,示指中指では屈曲位)を理解する.早期診断が徒手整復成功のカギとなる.
治療方針
【1】保存療法
まず徒手整復を試みる.局所麻酔を関節内に注入する.母指では,基節骨基