【疾患概念】
屈筋腱の滑膜性腱鞘内の化膿性炎症である(図16-22図).滑膜性腱鞘は,母指と小指では末節骨から手掌手関節まで,示指,中指と環指は末節骨から中手指節(metacarpophalangeal;MP)関節の掌側まで及んでいる.滑膜性腱鞘の一部に炎症が生じると速やかに滑膜性腱鞘内に炎症が波及する.
腱鞘内圧が増加すると屈筋腱の血行障害が生じ,腱の壊死や部分的な欠損(図16-23図)も起こりうる.
起炎菌は黄色ブドウ球菌が多いが,抗菌薬の投与後は培養検査で菌が検出されないこともある.
高齢者,初期に適切な治療をせず長期化した症例や,感染が重症化した進行例では,機能予後が不良とされる.
【臨床症状または病態】
Kanavelの4徴候,①手指軽度屈曲位,②手指全体のびまん性の腫脹,③屈筋腱腱鞘に沿った圧痛,④手指他動伸展時の激痛を呈する.適切な治療をしないと,関節拘縮が生じて動かない手指となり,重度の機能障害が残る.
問診で聞くべきこと
手指外傷の有無,刺創の既往,糖尿病の合併,ステロイド薬や免疫抑制薬の服用の有無,ばね指の腱鞘内注射の有無,非結核性抗酸菌症も考えて土壌や海産物との接触機会も聞いておく.
必要な検査とその所見
瘻孔からの排膿や切開排膿時に培養検査,単純X線検査,超音波検査やMRI検査,血液検査,局所の範囲を越えて感染が拡大している場合は静脈血培養をする.
手術で切除した腱鞘滑膜や肉芽組織を,他疾患との鑑別をする目的で病理検査に提出する.
鑑別診断で想起すべき疾患
非結核性抗酸菌症,結核,非化膿性腱鞘炎,蜂窩織炎,関節炎,痛風など.
専門病院へのコンサルテーション
早期に適切な治療をしないと重度の機能障害が生じるため,絶えず本疾患を念頭に置き,疑われたら早めに手外科専門医へ紹介すべきである.
治療方針
初期や軽症では抗菌薬を投与する.抗菌薬の効果判定前でも,激痛で超音波