診療支援
治療

脊髄外傷後の脊髄空洞症
Posttraumatic syringomyelia
川口 善治
(富山大学 教授)

【疾患概念】

 外傷性の脊髄損傷患者で脊髄内に空洞が形成され,遅発性の神経症状を生じることがある.MRIが診断に有用である(図17-12).脊髄損傷患者では症状の有無にかかわらず50%以上に空洞が認められる.このうち1~7%には症状を有するとされており,外傷後平均15年で診断され,有症状になるには1か月~45年かかるとの幅があると報告されている.また30歳以上で,完全脊髄損傷の場合,5年以内に脊髄空洞が起こる可能性が高い.原因は不明であるが,くも膜下腔の癒着が空洞発生の要因の1つと考えられている.

【臨床症状】

 既存の脊髄損傷に伴う症状に加えて,麻痺や知覚障害の上行が起こりうる.頚髄に病変が及ぶと新たな上肢のしびれ,手内筋の萎縮が生じる.空洞が上行し延髄まで影響が及ぶと嚥下障害なども起こる可能性がある.またさまざまな表現の痛みの訴えがあり,時に座位,臥位,咳,くしゃみなどで増悪する.その他,頭痛,発汗,起立性低血圧の悪化,排尿障害,安定しない脈拍や血圧など多彩な症状を伴うことがある.


問診で聞くべきこと

 新たに出現した神経症状の悪化がないかを聴取する.また本人に自覚が乏しい発汗,動悸,血圧の変動にも留意し,体調の変化などを聞く.


必要な検査とその所見

 空洞の有無を知るにはMRIがきわめて有用な検査となる.したがって,脊髄損傷患者ではフォロー中に一度はMRIの撮像を考慮する.また脊髄空洞を認めた場合,症状が強くないときでも空洞の拡大することがないか定期的にMRIを撮像する.一方,脊髄空洞はArnold-Chiari奇形でも生じることがあるため,小脳扁桃の大後頭孔への落ち込みがないかをチェックしておく.


鑑別診断で想起すべき疾患

 Arnold-Chiari奇形,脊髄腫瘍による脊髄空洞である.脊髄腫瘍が疑われる場合は造影MRIを撮像する.


診断のポイント

 脊髄損傷患者では半数以上に脊髄空洞

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