診療支援
治療

多発性硬化症
Multiple sclerosis
中村 仁
(仁整形外科クリニック 院長〔栃木県宇都宮市〕)

【疾患概念】

 多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)は,中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多発する慢性炎症性脱髄疾患で,さまざまな領域に,再発性に脱髄が生じ,空間的・時間的多発が特徴的な疾患である.その原因や病態はいまだ解明されていない.免疫学的異常が関与していると推定されており,神経症状の再発と寛解を繰り返しながら徐々に障害が進行していく疾患である.

【頻度】

 日本では約2万人,世界中で約250万人の患者がおり,欧米人に多く,アジア,アフリカでは,比較的少ない.欧米では10万人あたり80~100人以上である一方,日本では10万人あたり10人程度である.平均発症年齢は20代後半であり,若年成人が罹患する代表的な神経難病で,指定難病である.10歳未満と50歳以上での発症はまれである.女性が男性より3倍ほど多く,ほとんどの場合特記すべき既往歴を持たず,家族歴もない.近年罹患患者数は増加傾向である.高緯度地域ほど有病率が高く,有病率に対する緯度の影響が一般的に知られている.

【病型・分類】

 日本でのMS患者の大部分は,再発寛解型MSおよび,それが進行した二次性進行型MSである.初期から慢性進行性の経過をたどる一次性進行型MSは,約3%と欧米(10~20%)と比較して少ない.

【臨床症状および病態】

 脳・視神経・脊髄といった中枢神経に広く病変が認められることから,視力・視野障害,眼球運動障害,めまい,筋力低下,歩行障害,感覚障害,小脳症状,膀胱直腸障害,脳萎縮からくる高次脳機能障害,認知機能障害,抑うつ,多幸など精神神経症状をみることもあるなど多岐にわたる.脊髄症状は左右対称性に生じ,不完全性であることが多い.数時間~数日かけて四肢の運動障害や,痙縮,四肢の異常感覚や,知覚低下,レベルをもった体幹の感覚障害,膀胱直腸障害などを呈する.錐体路障害により四肢腱反射亢進,病的

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