【概説】
腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症,すべり症などに対して手術加療を行ったにもかかわらず,症状が残存もしくは悪化することがあり,それらは腰椎術後疼痛症候群(failed back syndrome;FBS)と呼ばれる.FBSには再発例も含まれるが,症状の種類や罹患期間などは明確に定義されてはいない.頻度は報告によりばらつきがあるが,約10%前後とされている.また,FBSに対して再手術を行うことで,腰椎多数回手術例(multiply operated back;MOB)へ移行していく.一般的にMOBは,初回手術に比べ術後成績は劣るとされている.さらに,FBSは整形外科の疾患,例えば変形性関節症や関節リウマチなどと比較して疼痛のレベルは高く,より強いQOLや身体機能の低下をきたすといわれている.
【病態】
FBSの病態は複雑であり,多くの要因が関連している.予測因子としては,術前因子,術中因子,および術後因子に分類される.
さらに,術前因子は患者側と医療従事者側に分類されるが,患者要因には,不安障害やうつ病などの精神疾患,肥満,喫煙,MOBなどがある.また,社会的背景(労災や障害支援年金の受給者)や心理的背景(職場でのストレスや医療従事者への不信感など)は最も強い関連があるとされている.医療従事者,特に主治医側の因子として,狭窄因子の見逃しや高位診断の誤りなど不十分な病態把握が考えられる.また,糖尿病性ニューロパチーや腫瘍性病変,神経内科疾患についても見逃してはならず,手術適応や術式選択を誤った場合も当然ながらFBSのリスクとなる.
術中因子としてはヘルニアの残存や不十分な椎弓切除による除圧不足,インプラントの逸脱や不良アライメントでの固定などが挙げられる.さらに,侵襲的な神経の取り扱いもリスクとなる.
術後因子としては,短期・長期にかかわらず合併症が挙げられる.感染や