【疾患概念】
骨盤輪は,恥骨で構成される前方要素と,仙骨や仙腸関節で構成される後方要素に分けられる.骨盤輪骨折や仙腸関節脱臼は,交通事故や墜落など高エネルギー外傷に伴う致命的な外傷であり,整形外科が病院搬送直後からかかわるべき,整形外科緊急症である.高エネルギー外傷のために,多部位の損傷を合併し,内臓器損傷を伴うことも多いため,他科と協力して治療戦略を立てる必要がある.一方,近年の高齢化に伴い,転倒などの低エネルギー外傷で受傷する,脆弱性骨盤輪骨折が増えてきている.転位が小さく,急性期に致命的となることは少ないものの,診断が難しく骨代謝が悪いために治療に難渋することがある.ここでは,骨盤輪骨折と脆弱性骨盤輪骨折を分けて解説する.
【分類】
重症度は,骨盤の後方構成体の破綻度合いによって決定される.Young-Burgess分類は,受傷機転によって,受傷側の腸骨部が内旋し骨盤容積が減じる側方圧迫型,腸骨部が外旋し骨盤容積が広くなる前後圧迫型,腸骨部が剪断力によって垂直方向にも転位し骨盤輪が破綻する垂直剪断型に分けられる(表22-1図).骨盤容積が広がれば内出血量も多くなるために,一般的に側方圧迫型より前後圧迫型のほうが重症であり,さらに垂直方向に骨盤輪の破綻を伴うと内臓器損傷なども合併しやすく,より重症化する.骨盤のどこに損傷があるかといった損傷部位の分類としてAO分類があり,また,脆弱性骨盤輪骨折においてはRommens分類が用いられる.
【病態】
(1)骨盤輪骨折,仙腸関節脱臼
骨盤輪が破綻し,周囲の血管損傷と骨折部からの出血により,大量出血をきたすことが主な死亡原因となる.
(2)脆弱性骨盤輪骨折
恥骨骨折では,骨盤輪の不安定性が強くないため,痛みに応じて歩行可能となる.しかし,恥骨骨折と診断しても,脆弱骨の場合は後方構成体が破綻していることがあり,荷重制限を要する.