【疾患概念】
大腿骨転子下骨折は,小転子下縁から3cmもしくは5cm遠位の間に発生すると定義される.内側皮質には大きな圧迫力が,外側には張力がかかり,生体力学的に大きな負荷がかかる部位である.
【病態】
若年者では高エネルギー外傷,高齢者では骨脆弱性に伴う低エネルギーでの骨折が生じる.近年では非定型骨折も散見され,骨癒合が得られにくい.また転移性骨腫瘍の好発部位でもある.
いったん骨折が発生すると,周囲の強大な筋に牽引され,大きな転位をきたすことも特徴である.近位骨片は腸腰筋・小中殿筋・短外旋筋群の作用により屈曲・外転・外旋する.遠位骨片は内転筋の作用により内転・短縮転位する(図25-1図).
【病型・分類】
わが国ではSeinsheimer分類が用いられることが多い.骨片の数と部位・骨折線の方向により分類している.また,世界的にはAO/OTA分類が一般的である.
問診で聞くべきこと
受傷原因(高エネルギー外傷であったかどうか),ビスホスホネート製剤などの骨粗鬆症薬の使用状況,悪性腫瘍の既往,その他基礎疾患については聴取すべきである.
必要な検査とその所見
単純X線の股関節正面・軸射像,大腿骨全長の正面・側面像を撮影する.そして健側の大腿骨全長の正面・側面像も撮影し,非定型骨折のチェックと髄内釘挿入の長さや径を術前計画できるようにしておく.骨折形態を把握しにくいことも多いため,CTにて精査すべきである.CTでは,見落としがちな同側大腿骨頚部の骨折のチェックもしておく.
治療方針
保存治療では,整復できず機能回復は難しく,基本的に手術治療が選択される.整復操作をまず行い,正確なアライメントを回復した後に,インプラント固定することが望ましい.整復操作には前述した転位の逆方向への力を加えることを理解しておくことが重要である.インプラントの選択では,髄内釘が高い骨癒合率を認めて第1選択である
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