診療支援
治療

“患者から学ぶ”の精神,そして常に疑問を
戸山 芳昭
(慶應義塾大学 名誉教授/一般財団法人 国際医学情報センター 理事長)

 運動器疾患は外傷から変性性や炎症性,腫瘍性,代謝性,先天性・遺伝性など,その原因も多岐にわたり,対象年齢も新生児から高齢者まですべての年代に及ぶ.このため,現在でも整形外科の教科書に記載されていないような疾患,病態に出会うことも時にある.筆者は,在籍した教室の伝統であった“患者から学び,常に疑問を持ち,その解明を目指す”の精神で診療に当たってきたつもりでいる.そのためか,患者から多くの興味ある現象や新たな疾患の存在を見出すことができた.

 例を挙げると,「腰椎変性側弯症(degenerative lumbar scoliosis;DLS)」もその1つであった.高齢者脊柱変形のなかで,筆者は1980年代初めに腰椎の側弯変形が年齢とともに徐々に進行していく高齢者に出会った.当時,DLSに関する発表はほとんどみられず,今後,わが国の高齢化に伴い大きな問題になっていく可能性を強く感じ,基礎・臨床研究を開始した.このDLSを脊椎疾患の1つに位置づけ,その定義から発生の原因や自然経過,神経症状の発現機序,形態分類,そして椎弓根スクリューによる矯正固定術もいち早く導入して臨床研究を進めた.その後,国内外の学会で脊椎関連の主要テーマの1つにDLSも取り上げられ現在に至っている.しかしながら,まだまだ多くのことが未解決であり,今後の成果に期待したい.

 ほかにも,「腰椎椎間板嚢腫」や「小児頚椎後弯変形後のre-alignment現象」,「小児にみられる軸椎棘突起剥離骨折」,「環軸関節回旋位固定の病態」,「リウマチ性環軸関節脱臼のメカニズム」,「環軸関節後方固定術における至適固定角度」,「椎間板ヘルニアや後縦靱帯骨化症関連遺伝子の同定」,「脊髄損傷の病態と再生」など,多くのことを新たに学ばせてもらった.臨床医は患者の訴えや臨床症状・所見・経過を納得いくまで徹底的に検討し,常に疑問をもたなくてはな

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