診断のチェックポイント
乳癌は女性の悪性腫瘍のなかでは最も多く,乳癌を心配し乳房腫瘤を主訴に受診する。全乳房腫瘤のなかで乳癌の頻度は数%程度と決して多くないので,不必要に不安をあおることは慎むべきではあるが,乳癌を確実に診断することが重要である。
【1】病歴:病歴を詳しく聴取することで,乳癌の危険因子を把握することができる。病歴として以下に挙げる項目(現病歴,既往歴,生活歴,家族歴)を聴取する。
❶現病歴
■腫瘤に気づいた時期,腫瘤の経時的変化,痛みの有無,月経周期との関係などを聴取。有痛性で月経周期で腫瘤が変化する場合,乳癌の可能性は少なく,下記の線維囊胞性変化であることが多い。
■乳汁分泌の有無,その性状(透明,乳白色,褐色,あるいは血性か)。透明や乳白色であれば,病的意義は乏しいことが多い。
❷既往歴
■過去に診断された乳癌,乳房の生検の有無とその結果を確認する。乳癌の既往がある場合には乳癌のリスクが高くなる。
■胸部の外傷の既往の有無。
■胸部への放射線治療歴の有無。
❸生活歴
■初経の時期と月経,閉経状況,妊娠・出産の回数,授乳の有無。
■飲酒と喫煙の状況,経口避妊薬や女性ホルモン剤服用の有無。喫煙や過度のアルコール摂取は乳癌の発症リスクを高める。女性ホルモン剤の長期摂取も乳癌リスクを増加させる。
❹家族歴:近親者に乳癌や卵巣癌,前立腺癌,膵癌などに罹患した人がいるかどうか。近親者にこれらの癌罹患者が複数いた場合や若年発症患者がいたときには,乳癌の発症リスクが高くなるだけでなく,遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)の存在も念頭におく。
【2】身体所見
❶乳房の触診はつままず,指の腹を用いてなでるようにソフトに行う。
❷腋窩,鎖骨上,鎖骨下,頸部のリンパ節の有無を触診する。
❸乳房腫瘤の触診所見
■腫瘤の位置や大きさ(大豆大とか