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■精神障害の診断に関する現状と課題 注意欠如・多動症(ADHD)のDSM-5診断基準改訂を例に
尾崎 紀夫
(名古屋大学大学院教授・精神医学)


 本書第7版が発刊された2015(平成27)年は,米国精神医学会が精神診断基準DSM-5を発表し(2013年),日本語版1)が刊行(2014年)された直後であった。以来DSM-5は,わが国の精神科診断に大きな影響を与えている。例えば,注意欠如・多動症(attention deficit/hyperactivity disorder:ADHD)はDSM-5において,①DSM-Ⅳ-TRまで広汎性発達障害との併存が認められていなかったが自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)との併存が認められ,②発症年齢が7歳から12歳に引き上げられた,という診断基準の変更がなされた。DSM-Ⅳ-TRにおいて,①「広汎性発達障害との併存を認めなかった」のは「場にそぐわない行動を多動や注意欠如と捉えられる可能性を避ける」ためであり,②「7歳以下発症」との基準を設けたのは「通学開始に対する反応との混同を避ける」ためであったとされている。ADHD診断拡大の方向性が打ち出されたDSM-5発表前後,「ADHDの過剰診断が生じる」との危惧が次々に表明されたが,その後,ADHDの発症年齢をより引き上げるのが妥当とする報告とそれを打ち消す報告の双方がなされている。

 「DSM-5鑑別診断ハンドブック」2)によれば,「注意散漫」や「衝動性・情動制御困難」を呈する患者において,まず「物質・医薬品,一般身体疾患によるもの」を鑑別したうえで,気分障害による「転動性」「注意集中困難」や「高揚気分」「焦燥感」を考慮し,さらに「12歳までに生じていること」を確認して初めて,ADHDの可能性を考えるべきとしている。鑑別と同時に,双極性障害はADHDとの併存率が高いとされており,併存の可能性も検討することが必要である。

 DSM-5発表とほぼ同時期,わが国ではADHD治療薬の成人への適応拡大が承

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