診療支援
診断

心的外傷後ストレス障害(PTSD)
Post Traumatic Stress Disorder(PTSD)
金 吉晴
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・所長)

診断のポイント

【1】出来事基準:死亡,重傷,性暴力被害を直接体験した,脅威を受けた,目撃したこと。

❶被害を受けずとも,差し迫った危険に直面した場合も含まれる。

❷伝聞による体験は,家族などの親しい人物が予期せずにこのような被害を受けたことに限られ,一般的なメディアのニュースを見ることは含まれない。

❸遺体収容者のように,被害現場の細部に業務として直面し続けることは含まれる。

❹子どもに対するネグレクト,感情的虐待は,それが上記【1】の出来事を伴わない限りは,含まれない。

【2】症状基準:侵入症状,回避症状,認知と気分症状,覚醒亢進があること。

【3】上記【2】が1か月以上続くこと。

症候の診かた

【1】侵入症状

❶出来事がその当時のありありとした知覚,感情,思考を伴って非意図的に,あたかも意識のなかに「侵入してくるかのように」想起され,現在の自分が安全であるという感覚が失われる。意識のなかに記憶が侵入してくる。単に「思い出す」「考える」ことは含まれない。

❷典型的にはフラッシュバックと悪夢であり,体験内容が幻覚のような知覚的イメージを伴って想起される。また,体験を想起させるような刺激(リマインダー)に触れたときに,感情的に激しく動揺したり,動悸や呼吸困難,筋緊張などの生理学的反応が生じ,容易に回復しない。

❸トラウマ体験のあとで恐怖症が生じることがあるが,その場合は想起刺激は実際に体験された特定の事物や状況(犬,高所,自動車など)に限定される。これに対してPTSDでは記憶が断片化しており,間接的に体験を想起させるさまざまな刺激が存在し,また刺激がなくても想起されることが特徴である。

❹項目反応理論に基づいた研究から,出来事基準を満たし,過去1か月間に表1の3つの侵入症状が存在すれば,高い確率でPTSDを推定できることがわかっている(感度94.8%,特異度86.1%)。

【2】回避症状

❶PTSD患

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