診療支援
治療

失認,失行,失語
agnosia, apraxia, aphasia
橋本 衛
(熊本大学大学院准教授・神経精神医学)
池田 学
(大阪大学大学院教授・精神医学分野)

Ⅰ.失認

【定義】

 失認agnosiaとは,視覚,聴覚,触覚など要素的な感覚機能には障害が認められないにもかかわらず,それぞれの感覚を通して対象の認知ができない,すなわちその対象が何であるのかがわからない状態を指す.認知の障害は,知能の低下や,注意の障害,失語による呼称障害に帰することができないものとされ,認知症や意識障害,失語は認めないか,それが原因とは考えられない程度でなければならない.

【分類】

 対象の認知が障害される感覚様式によって,視覚失認,聴覚失認,触覚失認などに分類され,さらに相貌失認のようにカテゴリー特異的なものも起こりうる.

A.視覚失認visual agnosia

 視力など要素的な視覚能力は存在するのに,対象の視覚認知ができない状態である.古典的には統覚すなわち形の知覚の段階の障害と考えられる統覚型視覚失認と,知覚された形と意味との連合障害と考えられる連合型視覚失認に分けられる.

1.統覚型視覚失認apperceptive visual agnosia

 視力と視野が正常ないし適切に保たれているにもかかわらず,単純な視覚刺激の形の識別ができない病態であり,それが何であるか認知できないばかりでなく,視覚対象のマッチング,異同弁別,模写も障害されている.両側後頭葉の損傷によって引き起こされる症状であり,一酸化炭素中毒後遺症の報告例が多い.

2.連合型視覚失認associative visual agnosia

 視覚表象は成立しているが,その視覚表象の意味がわからない状態である.模写やマッチングは可能である.両側の側頭-後頭葉病変による報告が多い.

B.相貌失認prosopagnosia

 視覚情報から顔を同定することができない病態である.妻や夫,子どもなど熟知の人物を見ても誰であるかわからないが,声を聞けば直ちにわかる.また声以外にも衣服や眼鏡,装飾品,仕草などの手がかりが

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