診療支援
治療

多幸
euphoria
菅原裕子
(熊本大学医学部附属病院・神経精神科)
坂元 薫
(赤坂クリニック坂元薫うつ治療センター・センター長)

【定義】

 多幸とは,常に楽天的で機嫌の良い状態を指す.しかし,その状態は状況にそぐわないことが多く,内容に乏しいことから,他者に浅薄な印象を与えるのが特徴的である.

【分類】

 多幸が生じる病態は以下のように大別される.

A.認知症に伴う多幸

1.脳血管性認知症

 脳梗塞といった脳血管性障害により認知機能障害を呈し,多幸がみられる場合がある.

2.神経変性疾患における認知症

 アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症,パーキンソン病,ハンチントン病などの神経変性疾患において認知機能障害を呈する.

 これらのほか,感染症を基盤とした認知症(HIVなど),正常水頭圧症などにおいても認知機能障害とともに多幸がみられる場合もある.

B.物質関連障害における多幸

 アルコールや精神刺激薬(アンフェタミン型物質やコカインなど)などの中毒性物質の使用に伴って多幸が生じる場合がある.

【鑑別診断のポイント】

 まずは年齢を考慮した鑑別が重要である.高齢者にみられる多幸の場合には,まずは認知機能検査を行い,認知症を呈する基礎疾患の有無について考慮する.認知機能障害を伴う場合には,脳画像検査などを行いさらなる鑑別を行う.しかし,脳画像検査において脳血管性の微小病変が認められた場合であっても,直ちに脳血管性認知症であるとの確定診断は困難であり,アルツハイマー病との合併もみられることから,鑑別は容易ではない.

 若年者にみられる多幸の場合には,まずは物質関連障害を疑う.生活歴を聴取する際に海外渡航歴,中毒性物質の使用歴について確認するとともに,使用が疑われる場合には薬物検査を行う.

 「多幸」は躁病エピソードにおける「爽快気分」とは区別されるべき症状であるが,両者ともに状況にそぐわない状態であることが多い点は共通しており,臨床上両者は混同されている場合が多い.しかし,躁病エピソードにおける爽快気分には通常,意欲の亢進を伴い

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