本論執筆時点での自殺に関する最新データは2015年のものであり,わが国では年間24,025件の自殺が生じていた.この数は交通事故死者数(4,117人)の5.8倍であった.さらに,自殺未遂者数は,少なく見積もっても既遂者数の10倍は存在すると推計されている.また自殺未遂や既遂自殺が1件生じると,最低でも強い絆のあった人々5-6人が深刻な心の傷を負う.したがって,自殺とは,死にゆく約24,000人の問題にとどまらずに,わが国だけでも毎年百数十万人の心の健康を脅かす深刻な問題であるといえる.
【自殺の定義】
自殺という単語はごく日常的に用いられているが,これほどあいまいに使われているものも少ないだろう.
社会学者のDurkheimは「自殺論」において,自殺を「当の受難者自身によってなされた積極的あるいは消極的行為から直接的あるいは間接的に生ずる一切の死」と定義した.
20世紀の自殺予防学を主導し