診療支援
治療

自傷,自殺
self-mutilation,suicide
高橋祥友
(筑波大学医学医療系教授・災害・地域精神医学)

 本論執筆時点での自殺に関する最新データは2015年のものであり,わが国では年間24,025件の自殺が生じていた.この数は交通事故死者数(4,117人)の5.8倍であった.さらに,自殺未遂者数は,少なく見積もっても既遂者数の10倍は存在すると推計されている.また自殺未遂や既遂自殺が1件生じると,最低でも強い絆のあった人々5-6人が深刻な心の傷を負う.したがって,自殺とは,死にゆく約24,000人の問題にとどまらずに,わが国だけでも毎年百数十万人の心の健康を脅かす深刻な問題であるといえる.

【自殺の定義】

 自殺という単語はごく日常的に用いられているが,これほどあいまいに使われているものも少ないだろう.

 社会学者のDurkheimは「自殺論」において,自殺を「当の受難者自身によってなされた積極的あるいは消極的行為から直接的あるいは間接的に生ずる一切の死」と定義した.

 20世紀の自殺予防学を主導した心理学者のShneidmanは,自殺とは「人間が自ら引き起こした,そして自ら意図した,生命を終わらせる行為」であり,この行為は「意識的かつ無意識的な多くの動機」を含むと定義した.

 加藤は,「真の自殺とは,ある程度成熟した人格を持つ人間が『自らの意志にもとづいて』死を求め,自己の生命を絶つ目的を持った行動を取ることに限らなければならない」とし,自殺をはかる人がその行為を自ら起こし,かつその行為が死をもたらすという現実を予想する能力があることを,自殺の定義とした.

 大原も自殺を「自らを殺す行為であって,しかも,死にたいという意図が認められ,その結果を予測し得た死である」と定義した.

 このように,自殺の定義で問題となる重要な点は,自殺をはかろうとしている人物自身の死の意図と,自らの行為がもたらす結果をどのように予測しているかという2点である.この「死の意図」と「結果予測性」が,自殺を定義するに

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