診療支援
治療

遅発性ジスキネジアへの対応
management of tardive dyskinesia (TD)
稲見康司
(西条道前病院(愛媛))
堀口 淳
(島根大学教授・精神医学)

◆疾患概念

【定義・類型】

 遅発性ジスキネジア(TD)は,数か月以上(多くは3か月以上)にわたる抗精神病薬などの長期投与中に,口の周囲や舌,四肢,体幹などに出現する不規則で多様な不随意運動と定義されている.TDの原因となる薬物は抗精神病薬が多く,特に高力価の定型抗精神病薬による場合が多いが,非定型抗精神病薬や抗うつ薬,ドパミン遮断作用を有する抗潰瘍薬,制吐薬によっても発現することが知られている.

【病態・病因】

 ドパミン・ニューロンが長期的に遮断された結果,線条体におけるシナプス後ドパミン受容体の感受性が亢進し,ドパミン神経系の抑制・促通系の均衡に障害が生じていることが主な原因と考えられているものの,TDの発現機序の詳細は現時点では不明である.その他,GABA神経系の機能低下,ノルアドレナリン神経系の亢進,神経細胞障害が原因とする説などがある.

【疫学】

 TDの発現率は日本人が白人よりも高く,また高齢,脳の器質的病変,糖尿病の合併などが危険因子とされている.TDは,精神科病院に入院している患者の10-20%程度に認められ,最大では30%程度とする報告もある.また,抗精神病薬の服用期間が長くなればなるほど,TDの発現率は増加する.

【経過・予後】

 線条体におけるドパミン受容体の感受性亢進は非可逆的と考えられており,TDは治療困難であり,慢性に経過する場合が多い.難治性の不随意運動は患者のQOLを低下させるばかりか,頭頸部のTDは嚥下障害,窒息などの危険性を高め,下肢のTDはふらつきや転倒の誘因ともなり,生命予後にも影響を及ぼすと考えられている.

◆診断のポイント

 TDに特徴的な臨床検査所見はなく,ドパミン遮断性薬物を長期間服用しているという病歴と,不随意運動の性状から診断することになる.またTDには,歩行によって不随意運動が軽減するという特徴があり,診断の参考となる.

◆治療方針

A.治療

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