診療支援
治療

解離性健忘
dissociative amnesia
柴山雅俊
(東京女子大学現代教養学部教授・心理学)

◆疾患概念

 DSM-5によれば,解離性健忘dissociative amnesiaとは,心的外傷的ないしはストレスの強い性質をもった出来事についての想起が不能であり,通常の物忘れでは説明ができない.ストレスの強い出来事とは,例えば幼児虐待,夫婦間トラブル,性的葛藤,法律的問題,経済的破綻,自殺企図などである.健忘に加え,目的をもった旅や道に迷った放浪のように見え,同一性の障害や自伝的情報の健忘などが認められれば,解離性健忘に「解離性遁走を伴う」と特定する.

【経過】

 解離性健忘のなかには比較的すみやかに記憶を回復する群のほかに,その後の経過によっては健忘以外の解離症状が目立つようになる群もあり,後者は他の特定される解離症や解離性同一症()と診断されることもある.

◆診断のポイント

 解離性健忘にはいくつかの類型がある.全般性健忘generalized amnesia(全生活史健忘allgemeine Amnesie)とは自分の生活史に関する記憶の欠落であり,系統的健忘systematized amnesiaは,ある特定領域の情報についての健忘である.限局性健忘localized amnesiaは,ある特定期間の出来事の健忘をいう.選択的健忘selective amnesiaとはある期間の出来事の一部だけを覚えているが,すべてを想起することはできない.外傷体験が逆行性の性質をもつのみではなく,その後の出来事が起こるたびにそれを忘れてしまう場合,持続性健忘continuous amnesiaとよばれるが,まれである.

【鑑別診断】

 詐病,てんかん,アルコールなどの物質関連性障害,一過性全健忘transient global amnesia,器質性精神障害などと鑑別する.

◆治療方針

 解離性健忘の治療原則は外傷性精神障害の一般的治療に準ずる.それにはHermannの回復の3段階が参考にな

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?