診療支援
治療

パーソナリティ障害の精神療法
psychotherapy for personality disorders
岡野憲一郎
(京都大学大学院教授)

【定義】

 パーソナリティ障害(PD)の精神療法は,パーソナリティの偏りや異常により社会生活や対人関係に障害をきたしている人々への,言語的なかかわりを主体とした治療的アプローチである.ただしPDにはさまざまな種類があり,またその障害の程度にも個人差がある.さらには本人の治療へのモティベーションもさまざまに異なるために,その精神療法のあり方について一括して論じることは難しい.そこで本項では,ある程度病識と治療動機をもち合わせている症例を前提として論じることとする.

【アセスメント-「重ね着」状態をみる】

 PDには多くの複雑な要素が関与するために,そのアセスメントは時に大きな困難を含む.PDは併存症を伴うことが多いが,それらの症状の消長はPDの表現のされ方にさまざまな影響を与えうる.過度に依存的で自己中心的な振る舞いの目立つ患者が,気分障害による感情の起伏が抗うつ薬などの使用により抑えられたあとにはPDとしての特徴をあまり示さなくなるというケースもある.同様の事情は双極性障害がPDに合併している際にも当てはまる.またアルコール関連障害,初期の認知症,あるいは頭部外傷などの器質的な要因によっても,PD様の感情体験や振る舞いが引き起こされる可能性がある.

 さらにこれらの上にしばしば重なっていると考えられるのが,発達障害の問題である.近年アスペルガー障害をはじめとする発達障害が注目を集め,思春期,青年期以降のそれらの症状について情報を提供したり注意を喚起したりする書物が相次いで出版されている.確かに従来のPDの一部はアスペルガー障害との関連でよりよくとらえられるという説には信憑性がある.その場合は,発達障害とPDとの重なり合いの問題はより重要かつ深刻な問題となる.

 このようにPDとみなされる状態の多くは,そこにさまざまな要因が複雑に絡み合った,いわば「重ね着」状態といえる.この点を理解す

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