診療支援
治療

パーソナリティ障害の薬物療法
pharmacotherapy of personality disorders
平島奈津子
(国際医療福祉大学教授・精神科)

 パーソナリティ障害患者の有病率は精神科患者の40%近くを占めるといわれており,今日の精神科医療にとって,パーソナリティ障害患者の治療は見逃せない問題となっている.しかし,パーソナリティ障害の薬物療法に関する研究はきわめて限定されているのが現状である.これには,いくつかの理由が考えられる.1つには,パーソナリティ障害には重複診断が多く,彼らが臨床現場に現れる場合,大抵Ⅰ軸診断を併存しているため,“純粋に”1つの障害に焦点づけた研究が困難なことである.また,後述する境界性パーソナリティ障害(BPD)のように,薬物に対する独特の態度のために薬効評価が困難な場合がある.本項では近年,薬物療法研究が報告されているBPD,失調型パーソナリティ障害(STPD),回避性パーソナリティ障害(AVPD)を取り上げて概説する.

◆薬物療法を行ううえでの留意点

 どの疾患についてもいえることだが,薬物療法を開始する前に,患者と意識的・言語的な協力関係を築くための働きかけが大切である.このような治療同盟の確立は,患者が主体的に治療に参加し,アドヒアランスを高めることに貢献する.パーソナリティ障害患者の場合は,その対人緊張や認知の歪みなどのために,理解が十分でない場合が想定されるため,繰り返し説明する.また,薬効や有害事象の報告など,患者の協力が不可欠であることを強調することによって,患者が主体性や責任を自覚できるように働きかけることが肝要である.なお,パーソナリティ障害の自殺の危険に有効な薬物は存在しないことは肝に銘じておく必要がある.

A.境界性パーソナリティ障害(BPD)

 攻撃性,情動不安定,認知・知覚障害などに対して,(通常の統合失調症に使用する量よりも)少量の非定型抗精神病薬が有効であり,安全性からも第一選択薬である.バルプロ酸ナトリウム(デパケン)は怒りや攻撃性に有効だが,その安全性から次善

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