診療支援
治療

病的放火
pathological fire-setting
小畠秀吾
(国際医療福祉大学大学院准教授・臨床心理学)
秋葉繭三
(筑波心理科学研究所)

◆疾患概念

【定義・病型】

 病的放火のとらえ方は多様である.精神障害と何らかの関連をもつ放火を病的放火と総称し,それを既存の精神障害から二次的に発生する放火と一次的な基本徴候として行われる放火(いわゆる放火症pyromania)とに分類する考え方がある一方で,ICDのように病的放火と放火症を同義とする考え方もある.

 放火症は衝動に抗しきれずに放火を繰り返す障害とされ,放火癖とよばれていた.それが,2013年に刊行されたDSM-5より放火症の語訳があてられ,秩序破壊的・衝動制御・素行症群に位置づけられた.DSM-5で新設された秩序破壊的・衝動制御・素行症群とは,原書の当該冒頭において,「情動や行動の自己制御に問題」があり,かつ,「他者の権利を侵害する,および/または社会的規範や権威ある人物との間で意味のある葛藤を生むに至る行動として現れる」ことが特徴であることが明記されている.さらにこの章で収載されている障害が外攻性externalizingとよばれる素行症/素行障害スペクトラムとの関連性にも言及されている.このことから,当該章の障害と犯罪の関連性が強いことは間違いない.特に,放火はそのまま刑法に記載されている罪名である以上,犯罪と直接的な関連性がある.

 意図的で目的をもった放火を繰り返していること(基準A),放火行為前の緊張感や興奮(基準B),火災とそれによる状況の関心(基準C),放火行為や火事の目撃による快感,満足感,解放感(基準D),合理的利欲によるものではないこと(基準E),素行症や躁病エピソード,反社会性パーソナリティ障害による放火ではないもの(基準F)を挙げている.加えて,ICD-10も(a)明白な動機のない放火の反復,(b)火災を見ることへの強い興味,(c)放火行為前の緊張の高まりと行為後の興奮をこの障害の特徴としている.そして,DSM-Ⅳから約20年ぶりの出版で

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