診療支援
治療

急性ストレス障害
acute stress disorder (ASD)
西 大輔
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・精神保健計画研究部システム開発研究室室長)
金 吉晴
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・成人精神保健研究部部長)

◆疾患概念

【定義】

 急性ストレス障害(ASD)は,外傷後ストレス障害(PTSD)の出来事基準を満たす体験のあとで以下のような急性の症状が生じ,持続が3日から1か月までのものをいう.1か月を過ぎて再体験などの症状が持続する場合は,PTSDの診断となる.なおトラウマ後の48時間以内を直後期とよび,ASDの診断がつく3日目からを急性期とよぶことが多い.

【病態・病因】

 ASDの直接のきっかけとなる外傷的出来事の規定,生物学的要因についてはPTSDの項()を参照されたい.ASDの病像を決定する直接の要因はトラウマ的出来事の衝撃であるが,その症状には解離の要素が入り込んでおり,社会心理的要因の影響が想定される.

【状態と特性】

 トラウマ的出来事が何度も想起され,恐怖などを強く感じる侵入症状,興奮や苛立ちなどの覚醒症状,茫然として我を見失っている解離系の症状,それに伴って出来事に関連する思考や刺激の回避,また陽性感情の麻痺が生じる.

 ASDの主要症状の1つである解離は,トラウマの最中,直後に生じることが比較的多く,周トラウマ期解離peritraumatic dissociationとよばれる.その程度は「かすかで,瞬間的で,ほとんど気づかないほどのめまいや意識混濁から,深くて長く持続する意識喪失まで」多種多様である.周トラウマ期解離がのちのPTSDを予測するという知見も出されていたが,最近の研究では基本的には正常反応であり,これが急性期にも持続した場合にPTSDを実際に予測するとされる.したがってASDのうち解離症状が認められ,それぞれが周トラウマ期から持続している場合にはPTSD発症リスクに注意が必要と思われる.

【疫学】

 大規模な疫学調査がないため一般人口における有病率は不明だが,これまでの先行研究によると,がんや急性心筋梗塞などの身体疾患患者では2-4%,台風・地震などの自然災害や交

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