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神経原線維変化型老年期認知症(tangle only dementia)
senile dementia of the neurofibrillary tangle type (SD-NFT)
山田正仁
(金沢大学大学院教授・脳老化・神経病態学(神経内科学))

◆疾患概念

【定義】

 アルツハイマー病Alzheimer disease(AD)と同様に海馬領域を中心に多数の神経原線維変化(NFT)を有するが,老人斑をほとんど欠く認知症の一群が存在することが従来知られており,しばしばADの非典型例あるいは亜型と考えられてきた.筆者ら(1996)は,こうした病理学的特徴を有する老年期認知症例を,同年代のADと臨床,病理,アポリポ蛋白E遺伝子型などについて比較し,それがADとは異なる新しい疾患単位であることを示し,NFT型老年期認知症という名称を提唱した.その後,本症は辺縁系神経原線維変化認知症,神経原線維変化優位型老年期認知症,神経原線維変化を伴う老年期認知症,tangle(only)dementiaなどのさまざまな名称でよばれてきたが,それらは同義のものと考えられる.

【病態・病因】

 海馬傍回,海馬を含む海馬領域に大量のNFTがneuropil threadsとともに分布し,神経細胞脱落,グリオーシスを伴う.NFTの超微形態や構成成分のタウ蛋白のアイソフォーム(3R+4R)にはADとの違いはない.一方,老人斑(アミロイドβ蛋白沈着)はほとんどみられない.

 海馬領域は加齢とともにNFTが出現する領域である.明らかな認知症のない百寿者脳にみられるNFTの分布は,SD-NFTのそれに類似しており,SD-NFTは脳の老化過程が加速された病態である可能性がある.最近,加齢に伴い海馬領域を中心にNFTが出現する病理・病態の全体を指して“primary age-related tauopathy(PART)”と呼ぶことが筆者を含むグループによって提案された.

【疫学】

 SD-NFTは,老人病院では高齢者剖検例の1.7-5.6%,地域住民対象の久山町研究では高齢者認知症の2.9%(全例が剖検例で剖検例の4.9%)を占めた.発症は加齢に伴い増加し,90歳以上で

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