◆疾患概念
【定義・病型】
アルコール飲料を長期反復ないし大量摂取した者にさまざまな認知症の症状が起きる.そのなかに,アルコール飲料摂取に伴うビタミンB1欠乏によるウェルニッケ-コルサコフ症候群Wernicke-Korsakoff syndromeやニコチン酸欠乏によるペラグラ脳症pellagra encephalopathy,アルコール性肝臓障害による肝性脳症hepatic encephalopathyがある.そのほか,機序不明の神経病理所見を呈するものに,脳梁変性をきたすマルキアファーヴァ-ビニャミ病Marchiafava-Bignami diseaseや大脳皮質第3層に層状に広範なグリオーシスを起こすモレル病Morel diseaseがある.これらは,栄養障害や機序不明などそれぞれ特異な神経病理所見を示す広義のアルコールによる認知症といえる.
しかし,これらに含まれないアルコールかアルコールの代謝産物が直接の原因と考えられる狭義のアルコールによる認知症が,臨床上明らかになっている.厳密な意味で「アルコール性認知症」といえる.
アルコール性認知症はDSM-Ⅳではsubstance-induced persisting dementiaに含まれたが,DSM-5ではsubstance/medication-induced major or mild neurocognitive disorderに分類されるアルコールに起因するmild(まれにmajor)neurocognitive disorderにあたると考えてよい.
アルコール性認知症は記憶障害が軽度で認知症の存在に気づかれにくいが,高次機能障害と人格変化とが混在し,高次機能障害が目立つものと人格変化が目立つものとがあり,発症年齢から若年型認知症に入るものが多い.
【病態・病因】
神経病理学の立場から,アルコール性認知症は