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治療

BPSDと漢方
behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD) and Kampo therapy
水上勝義
(筑波大学大学院教授・人間総合科学研究科)

◆疾患概念

【定義・病型】

 BPSDとは,認知症患者にみられる認知障害以外の,知覚,思考内容,気分あるいは行動面における症状の総称である.BPSDには,幻覚,妄想,興奮,易刺激性,うつ,不安,アパシー,睡眠障害,徘徊,攻撃的言動,食行動異常などさまざまな症状が含まれる.BPSDは患者と家族の心理的苦痛をもたらし,在宅生活を困難にさせる一因となる.

【病態・病因】

 BPSDは認知機能障害に加えて,患者の元来の性格傾向や,患者と家族との人間関係をはじめとする環境要因から発展することが多い.例えば記憶障害のため「しまったはずの場所に財布がない」と考え,「(日頃から関係がよくない)嫁が盗んだに違いない」と物盗られ妄想に発展する.認知症が高度になると着脱衣や入浴の介助が理解できず「何か恐ろしいことをされる」と恐怖を感じ,興奮や暴力に至る.また認知症疾患では,脳内でさまざまな神経回路や神経伝達系の障害が生じており,このような脳の機能変化がBPSD発現の基盤となっていると考えられる.

【疫学】

 BPSDの頻度は報告によって異なるが,認知症のおよそ8割に何らかのBPSDがみられる.それぞれの疾患や病期によって,好発するBPSDは異なる.アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease;AD)ではアパシーや興奮などの頻度が高く,また病初期から中期にかけて物盗られ妄想がしばしばみられる.レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)では幻視,誤認妄想,うつが,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)では,常同行為や食行動異常がADに比して多く認められる.

【経過・予後】

 BPSDの多くは,認知症の重症度が進むにつれて出現頻度が高くなる.特に徘徊や攻撃的言動などの行動障害ではこの傾向が目立つ.

◆診断のポイント

 BPSDに対

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