診療支援
治療

高齢期の身体表現性障害
somatoform disorders in late life
笠原洋勇
(東京慈恵会医科大学客員教授)
朝田 隆
(東京医科歯科大学特任教授)

◆疾患概念

【定義・病型】

 身体表現性障害についてICD-10では,「検査所見は陰性が続き,症状にはいかなる身体的基盤もないという医師の保証にもかかわらず,医学的検索を執拗に要求するとともに繰り返し身体症状を訴えるもの」としている.症状としては,呼吸困難,動悸,めまい,腹痛,頭痛,頭重などさまざまであるが,高齢者になると身体へのこだわりがさらに高まり,不定愁訴的となる.身体表現性障害は,ICD-10では身体化障害,心気障害,身体表現性自律神経機能不全,持続性身体表現性疼痛障害,など7つに分類されている.高齢者の場合,何らかの身体疾患を合併しており,経過が長期化する傾向がある.

【病態・病因】

 高齢者は生存欲求は衰えないが,身体機能の低下や喪失体験が続き,身体的訴えがしばしばみられる.根底には,身体へのとらわれが存在し,医師を受診することが多くなるが,患者は,諸検査の結果問題がないことを知らされても身体へのとらわれは消えずに,身体的訴えを繰り返すため,医師からは対応が難しい患者と見なされる.身体症状を訴えるメカニズムについては身体化somatizationとして要約される,すなわち病理学所見によって説明されていない身体的苦痛や症状を体験し,それを身体疾患によるものと見なし,周囲に訴え,医学的援助を求める傾向を指す.身体化をきたしやすい要因としては,内因性,自己の感情や心理的葛藤を言語化できないなどが挙げられる.なおDSM-Ⅳにおける身体表現性障害の概念はあいまいであったため,DMS-5では身体症状症および関連症群と改められている.

【疫学】

 高齢者は不安を抱きやすい.地域在住成人2,460人について調査したGurianらは65歳以上群と21-44歳群を比較したところ,認知的不安(神経質,心配,恐怖)はほぼ3倍,身体的不安(息切れ,呼吸困難,心悸亢進)はほぼ7倍であり,65歳以上群で

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