診療支援
治療

脳卒中後のアパシー
post-stroke apathy
小林祥泰
(島根大学医学部特任教授)

◆疾患概念

【定義,病型】

 アパシーは便宜的には感受性,感情,関心の欠如と定義されている.Marinはアパシーを動機づけの欠如によるものであり,意識レベル低下や認知障害,感情的な悲嘆に起因するものではないとしている.Levyは症候群としてのアパシーは他の心理学的解釈とは独立して客観的に測定可能であるべきものであり,以前の行動に比して自発的な行動と目的指向型行動の量的な減少と定義している.アパシーの背景となる機序には3つのサブタイプがあり,1つは喜怒哀楽といった情動と,より高度な感情の連携過程の破綻であり,眼窩内側前頭前野皮質もしくは線条体,淡蒼球腹側の辺縁系の病変に関連する.2つ目は認知処理過程分断による計画策定などの実行機能の低下で背外側前頭前野皮質と,関連する背側尾状核(背外側前頭前野神経回路)の病変と関連している.3つ目は自動的賦活化過程の障害により自ら発想することや自発的な行動が障害されるが外的駆動による行動は保たれるもので,最も重度のアパシー(精神的無動)を呈する.両側前頭前野や両側淡蒼球病変によって生じやすいとしている.

【病態・病因】

 Levyらはアルツハイマー病などでNeuropsychiatric Inventoryを用いて抑うつとアパシーを評価し,両者の関係を検討した結果アパシーと抑うつは相関せず,また,認知機能もアパシーのみで有意な相関を認めたことから,「アパシーはうつ状態ではない」ことを強調している.すなわち,アパシーはうつ状態とは全く異なった病態であり,独立して存在しうるものである.

 Alexopoulosによる血管性うつ状態の定義では二次的特徴として①実行機能の障害に限局しない認知機能障害の存在(計画力,企画力,持続力,抽象力),②精神運動制止,③罪業感などの抑うつ思考の乏しさ,④病識欠如,⑤無力感,⑥感情障害の家族歴がないことを挙げている.この定義

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