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治療

単純ヘルペス脳炎
herpes simplex encephalitis (HSE)
小路純央
(久留米大学准教授・神経精神医学)

◆疾患概念

【定義】

 単純ヘルペスウイルスherpes simplex virus(HSV)による中枢神経感染症である.

【病態・病因】

 HSVの初感染の多くは,不顕性感染であるが,成人での初感染は重篤化しやすい.HSV-1型(口唇ヘルペス)とHSV-2型(性器ヘルペス)があるが,その多くが1型が原因である.成人では嗅神経や三叉神経に潜伏していたHSVが再活性化して脳炎を起こし,2型は新生児で経産道的に感染することが多く,また成人での脊髄炎・髄膜炎の原因となる.病理学的には側頭葉,大脳辺縁系が好発部位の左右非対称性の急性壊死性脳炎であり,約半数に核内封入体(CowdryA型封入体)を認める.HSEの多くは急性発症であるが,時に亜急性,例外的に慢性発症,再発例も認められる.

【疫学】

 脳炎の原因の多くは未確定であるが,HSEは脳炎全体の約20%,起炎ウイルスが判明している脳炎の60%で最も頻度が高い.いずれの年齢でも発症を認め,明らかな性差や季節的変動はない.

【経過・予後】

 発熱,頭痛,倦怠感で発症し,脳圧亢進症状,髄膜刺激徴候(頭痛,悪心・嘔吐,項部硬直,Kernig徴候),さまざまな程度の意識混濁(ほぼ必発)と変容,けいれんの出現が特徴的で,局所徴候として,幻覚・妄想などの精神症状,健忘症候群,自発性低下,運動麻痺,味覚障害,嗅覚障害,失語症,視野障害,ミオクローヌスなどを認める.まれではあるがKlüver-Bucy症候群(精神盲,口唇傾向,情動変化,性行動の異常亢進)を認めることがある.わが国において抗ヘルペスウイルス薬の導入以後,予後は改善されたが,致命率は10-30%と依然高く,約30-40%の社会復帰がみられるが,同程度に記憶障害,症候性てんかん,性格・行動異常,嗅覚脱失,失語,失外套症候群などの後遺症が残存する.特に治療開始の遅れ,昏睡に至る意識障害,けいれん重積,脳

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