診療支援
治療

抗酒薬(ジスルフィラム)による精神症状
psychiatric symptoms induced by alcoholphobic
湯本洋介
(久里浜医療センター・アルコール科)
樋 口 進
(久里浜医療センター・院長)

◆疾患概念

【定義・病型】

 抗酒薬は,現在も多くのアルコール依存症者に処方されている.わが国で使用可能な抗酒薬に,液体製剤のシアナミドと粉末製剤のジスルフィラムがある.数は多くないものの,ジスルフィラムは精神症状を引き起こすとの報告がされている.

 ジスルフィラムは,1881(明治14)年にゴム製品の製造過程で使用される物質として生成され,産業分野で使用されていた.1930年代になってアルコールと同時に用いると不快な反応が起こることが判明し,1948(昭和23)年よりアルコール依存症の治療薬に用いられ始めた.その後,60年以上にわたって本薬剤は,抗酒薬として世界中で使用されている.

【病態・病因】

 本薬剤の作用機序について述べると,ジスルフィラムはアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きを阻害し,もしアルコールを摂取すればアセトアルデヒドが蓄積され,不快なジスルフィラム-アルコール反応disulfiram-ethanol reaction(DER)を起こさせ,頻脈や顔面紅潮,嘔気や嘔吐をもたらすというものである.それに加え,DERへの恐怖感や苦痛を避けようとする思考が,アルコール使用を思いとどまらせ,断酒効果につながるという心理的効果もある.

 ジスルフィラムが精神症状を起こす理由は,本薬剤の代謝産物であるジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムsodium diethyldithiocarbamate(DDC)が,ドパミンβヒドロキシラーゼ阻害作用をもっているためである.この作用により,ドパミンからノルアドレナリンへの代謝がブロックされるため,大脳辺縁系でドパミンの蓄積が引き起こされる.ジスルフィラム使用中に飲酒をすることで精神症状が引き起こされることもあるが,ジスルフィラム単独での使用でもドパミン濃度が上昇し,精神症状を引き起こすことがある.

 状態像としては,幻覚妄想を主

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?